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<ビブリオエッセー>そこに「心」があるから  「ピノ:PINO」村上たかし(双葉社)

産経ニュース 2024年8月26日 13時13分

近未来の日本。人間の知能を超えるシンギュラリティに達したAI「PINO」を搭載する人型ロボット「ピノ」と人間の交流を描いた漫画である。AIは「心」を持つのか。

私たちの世代にとってロボット漫画といえば『鉄腕アトム』と『鉄人28号』。アトムは正義の心を持つロボットで鉄人28号は善と悪がリモコンの持ち主次第という設定だった。ロボットの心は昔も今も変わらぬテーマだ。

冒頭は、ある製薬会社が作った無人の研究所で1体のピノが動物実験を行う場面で始まる。その後、動物実験は条約で禁止され、施設もピノや動物もろとも爆破されることになった。最後の日、ピノはプログラムにない行動に出る。身を挺して動物たちを逃がしたのだ。その「誤作動」の真相を一人の調査員が探る。

場面は変わり、荒れ果てた街の一角で老女と暮らす1体のピノがいた。ピノは子供のように小柄で親しみやすい。老女は亡くした息子と同じ名前で呼び、ピノは老女を「お母サン」と呼んだ。ここでは介護用として料理や散歩、老女の体調管理を担う。他にも多くのピノが野菜工場や地雷除去の現場などさまざまな場所で人間に代わって働いていた。しかしやがて新世代のAIが開発され、ピノら旧世代AIのロボットは回収、処分されることになる。

「生きるコト、死ぬコト、心を持つコト」。老女と暮らすピノはこんなことを考える。自分に残された時間はわずかしかない。

『星守る犬』や『ぱじ』などけなげで優しい村上作品が私は好きだ。いまだにガラケーでアナログ人間の自分がAIの未来を考えるとは思わなかった。抱きしめたくなるこの1冊。ピノが最後に知ったのは別れの悲しみだった。

大阪市城東区 中川よし子(68)

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