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一般人と寺とのズレはなぜ生じるのか 『葬式仏教 死者と対話する日本人』薄井秀夫著 〈産経BOOKS〉

産経ニュース 2024年6月30日 5時30分

『葬式仏教 死者と対話する日本人』薄井秀夫著(産経新聞出版・1320円)葬式仏教。この言葉には「葬式ばかりやっていて、教えを説かない仏教」や「葬式で金もうけばかりしている仏教」といった否定的なニュアンスがにじむ。しかし、お寺運営コンサルタントとして長年実態を見てきた著者は「日本人が生活のなかで信仰してきた、紛れもない宗教」であり、死者への優しさに満ちた「とても大切な財産」だと評価する。

本書は、葬式仏教という死者供養中心の日本特有の仏教が室町時代の後半に生まれ各地で浸透していった歴史のほか、お布施を巡って金額の相場を知りたがる一般生活者側と「お気持ちで」を繰り返すお寺側との間でズレが生じる背景、地域コミュニティーの中核としてのお寺の再生に向けた方策などを記す。

興味深いのは、日本で葬儀の9割近くが仏教式で行われているにもかかわらず、僧侶育成の大学や学部では葬送や祈願について学ぶ講義がほとんどないことだ。国民的な行事であるお盆についても「〝この世に戻ってきた死者と触れあう期間〟という考えは、仏教の教義には存在しない」とか。目から鱗(うろこ)が落ちる話だ。

供養という死者との対話を通じ、心の安らぎや謙虚さをもたらしてくれる葬式仏教の存在感の大きさと魅力がじわじわ伝わってくる。(伊)

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