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<ビブリオエッセー>たどり着いた自分の世界  「家系図カッター」増田セバスチャン(角川文庫)

産経ニュース 2024年7月22日 12時47分

学生時代のある日、雷に打たれたような衝撃を受けた。どこか気だるげな夕方、なにげなくYouTubeを再生した時。それは「きゃりーぱみゅぱみゅ」のMVだった。

あるいはその何年か後、サンリオピューロランドのミラクルギフトパレードで見たキティちゃんたち。色とりどりでありながら喧嘩しない組み合わせの衣装と電飾に、私は枯れた目から生命力が吹き込まれるように感じた。それらの美術を手がけていたのがアートディレクターでアーティストの増田さんだ。

日本が誇るカワイイ文化。増田さんはその担い手だ。発信源の原宿でショップを始め、数々の活動を経て拠点をNYへ移し、私はとても華やかな印象を受けていたが、その自伝『家系図カッター』は壮絶だ。2011年に刊行されたが最近、文庫で読んだ。きゃりーぱみゅぱみゅを久しぶりに聞いたのがきっかけだった。

祖父母や両親のことから語る家族の歴史。裕福だが新興宗教にのめりこんだり、ネグレクト(育児放棄)だったり、家族のみんなが抱える精神的な不安定さが文面からにじみ出る。自分は何がやりたいのかと迷い、もがく増田さんはそんな環境から逃げるように家を出た。

大阪で働きながら図書館に通い、寺山修司を知って演劇にのめり込む。そして現代美術家ら数々の出会いを経て小さなショップを持った。アメリカでの見聞などを通して「カワイイ」のイメージが膨らんでいく。

増田さんはここで乱暴な言葉や因果、運命と書きながら、文庫のあとがきでは東日本大震災のボランティア経験で知った被災者の人生の物語に、改めて自分の人生に向き合う意味を問うている。予想もしない展開にまた驚いた。

東京都渋谷区 エリザベス(32)

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