55年間出演した演芸番組「笑点」を昨年卒業した林家木久扇(きくおう)が、戦前戦後に接した芸能の思い出を、40歳年下で芸能が大好きな林家たけ平に語った本。昨年11月の発売直後、東京・神田神保町の東京堂書店でベストセラーランキング1位となった。
本書では、まず芸能人らの爆笑エピソードを紹介。「喜劇王」エノケンは気さくでショーの仕事もくれた。片岡千恵蔵の当たり役である名探偵、多羅尾伴内のモノマネを本人の前で披露し、「私はあんなじゃありません」と言われたという。舞台芸人のトニー谷や落語家の桂歌丸らも。
木久扇は昭和12年、東京の下町生まれ。10歳頃からアルバイトをし、当初志した漫画家から落語家に転じて前座時代はキャバレーの司会などで稼ぎ、道を切り開いた。彼が語る戦前の下町や戦後の闇市、占領下やテレビ黎明期の風景も興味深い。
「芸能史はもちろん、人とのかかわりを大切にする昭和のよさ、大変なことも視点を替えて乗り越える木久扇さんの生きる力を学べるという反響もあります」と編集担当の田中ひろこさん。昭和歌謡を取り上げた「木久扇の好きな歌」コーナーは、たけ平の解説も読み応えがある。「昭和100年」の今年も注目されそうだ。 (三保谷浩輝)
■『木久扇の昭和芸能史』林家木久扇・林家たけ平著(草思社・2200円)