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幽霊よりも怖いもの 美村里江のミゴコロ

産経ニュース 2024年9月9日 13時7分

夏といえば怪談やホラー。私も愛好家として張り切っているが、最近はいわゆる「ヒト怖」、精神的に壊れた人間を主題にしたものが多い印象だ。幽霊やモンスターはおとなしい(?)今年の夏である。

そんな中でも皆さんに少しヒヤッとしてもらうべく、かなり前の出来事を書こうと思う。前提として、誰かに個別の責任があるという話ではなく、いつでも誰にでも起こりうる、身近な事故の危険として読んでいただければ幸いだ。

撮影中、われわれ役者の周りには、重い機材がたくさんある。カメラや照明器具を安定使用するには、10キロ程度の砂袋で脚部分を押さえることが必要となってくる。倒れたら高額の機材も無事では済まないし、その下に人がいたらもちろんけがをする。

「危ない!」

そんな声が聞こえたとき、私は右上を振り向いて倒れてきた黒い影を見た。その瞬間、考えたことは3つ。

まず、左右には逃げられないこと。ボックス席に座っていたので左は壁、右にはカメラが構えていて移動できないと理解した。

次に前後はどうかというと、これもテーブルと背もたれに挟まれている。しゃがんでテーブル下に入ることもよぎったが、すると〝物体〟が前に座っている役者の顔面に当たる危険があるので、これも却下。最後に「このままだと私の顔面に直撃じゃないか」との結論に至り、即座に振り向き直して右後頭部で器具を受けた。

ガシャーン!!

衝撃音と、それを食らった私が数秒全く動けなかったことで現場は騒然。なんとか笑顔を作って「大丈夫です~」と撮影を再開してもらったが、ずくずくと痛む後頭部が妙に熱い。

10分後、撮影終了目前ですっと後頭部が涼しくなり、楽になったと思ったら流血していた。たまった内出血がはち切れ、流れ出たのだ。再び大騒ぎの現場を後に病院へ。

かつて女優の沢村貞子さんは、映画撮影中に落下した照明器具(現代より巨大)が顔に直撃。慌てふためくスタッフに「腫(は)れてくる前に撮っちゃって」と活を入れ、撮影を終えてから颯爽(さっそう)と病院へ向かったという。すごい胆力だ。

私の外傷もすぐ塞がったが硬いはずの頭蓋が少しへこんだので、顔面だったら役者人生は終わっていたと思う。日常と隣り合わせの単純事故の危険、皆さんもご注意ください。

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