私が書いた「下剋上受験」がドラマ化されたのが2017年の1月でした。朗報を聞いたときは嬉しかった。こんな嬉しいことがあっていいのかと思いました。『金曜ドラマ下剋上受験』を観る時はいつもテレビの前で正座でした。
うまく説明できない涙も出てきて純粋にドラマを楽しめなかったような気がします。娘は顔面蒼白でした。衝撃が大きすぎたのだと思います。主題歌は斉藤和義さんが歌ってくださいました。「遺伝」というその歌はカラオケに行くとちゃんとあるのです。それもまた不思議な気分です。
このドラマを一番観ていたのは、当時小学校高学年の子どもたちで、いまは高校3年生から大学2年生くらいになっています。
中高と誰にも話さず過ごしてきた娘ですが、大学生になってこんなことがありました。サークルなのか部活なのか私にはよくわからないのですが、ある集まりでひとりがドラマ下剋上受験のことを話し始めたそうです。自分はドラマを観て中学受験を頑張ったんだと言うのです。
これまでも娘の通う中高でそういうことはあったそうですが、数人で話しているためにただ頷いて聞いているだけだった。ところが、今回は帰り道に二人きりになったときも話が続いたらしく、なぜか爆弾発言してしまったというのです。「実は佳織ちゃんはわたしなんだ……」すると、普通に流されてしまった。
「だからあ、あれ書いたのわたしの父なんだ」そういうと、「え?え?え?」となり、本当だとわかると、突然「握手してください!」と言われ手を離してくれなかったというのです。「内緒だよ」と念を押した後、ドラマの中でずっと気になっていた部分があり、そこはどうしても真実が知りたいと。
「まりあちゃんって実在します? どこに進学しました?」と尋ねられ、「そこかよ!」と思ったらしいですが、影響のない範囲で話したそうです。
その子の周りにもドラマに励まされて親子で勉強した子、たくさんいたそうです。親が張り切りすぎてありがた迷惑なケースも正直あった。でもみんな、ほんの一時期だけど、親と子が少し近づいた経験をしたと言います。
当時、私のところにもたくさんのメッセージが届きましたが、(お、お、お父さん、張り切りすぎです………)と慌ててしまうこともよくありました。しかし、中学受験は親次第なんだということを知っていただく良い機会だと思いました。
一部の優秀な子以外は、親がいないと伸びない、私はそう確信しています。親が塾の送迎だけでは成績はずっと横ばいというケースは本当に多い。
きっと、親が必要なのはわかっている人が多いけれど、なかなか時間が取れないのでしょう。様々な事情がある中で、親次第の勝負をしているのが中学受験。事情がない人の方が珍しいのです。そして、中学受験が大学受験に大きく有利になっていることも事実だと思います。いま中学受験に挑んでいる方々、子どもに少し近づくだけで、その才能に気づくはずです。「この子はひょっとして」と。
筆者紹介
桜井信一(さくらい・しんいち) 昭和43年生まれ。中卒の両親のもとで育ち、自らも中卒になる。進学塾では娘の下剋上は難しいと判断、一念発起して小5の勉強からやり直し、娘のために「親塾」を決意。最難関中学を二人三脚で目指した結果、自身も劇的に算数や国語ができるようになる。現在は中学受験ブログ「父娘の記念受験」を主宰、有料オンライン講義「下剋上受験塾」を配信中。著書に、テレビドラマ化されたベストセラー『下剋上受験』をはじめ、『桜井さん、うちの子受かりますか』、馬淵教室と共著の『下剋上算数』『下剋上算数難関編』などがある。