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知を社会につなぐ「東大前HiRAKU GATE」 出版社新社屋にできたベンチャー拠点 現着しました!

産経ニュース 2024年10月21日 15時0分

東京大には本郷通りに面して3つの主要な門がある。本郷キャンパスの赤門と正門、そして農学部などがある弥生キャンパスの農正門だ。門は、大学から人材を輩出し、教育と研究の成果を社会に還元する象徴だが、4つ目の門ともいえる場所が1年ほど前に誕生した。出版社と東大が連携し、大学発ベンチャーを支援する施設が入る「東大前HiRAKU GATE」(ヒラクゲート、文京区)を訪ねた。

安藤忠雄氏の設計

東大の農正門から本郷通りを北に200メートルほど行くと右手にガラス張りのビルがある。地上10階、地下1階建てのビルは、教材や絵本を中心に出版する「新興出版社啓林館」(大阪市)の東京支社の新社屋だ。日本を代表する建築家の一人、安藤忠雄氏が設計を手掛け、昨年8月に完成した。

もともと社屋があった場所に建てられたもので、同社は建て替えに当たり、ただのテナントビルにするのではなく、社会貢献につながる付加価値を持たせたいと、近隣にある縁で東大と協議。東大の100%子会社である「東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC、文京区)」と連携して、ベンチャー支援拠点を新社屋内に開設した。

東大IPCは、アベノミクスの成長戦略の目玉に掲げられた「官民ファンド」の一つとして平成28年に設立された。大学発の研究成果の実用化を推進し、起業や資金調達を支援する投資事業を行っている。設立まもないベンチャー企業に特化した支援プログラム「ファーストラウンド」も展開。最近では、ノーベル賞候補にも上がる古沢明・東大教授らが率いる量子コンピューターのベンチャーも、このプログラムに採択された。

ヒラクゲートは、啓林館の支社が入る2階以外はほとんどがベンチャー企業向けのスペースとなっている。ファーストラウンドで採択された企業を中心に、十数社が入居したり、コワーキングスペースを利用したりしている。起業を志す学生も利用できる。

ベンチャーというとIT系を想像しがちだが、東大IPCの投資先は幅広い学問領域をカバーしており、「創薬を始めとするライフサイエンス系の比重が大きい」と、同社パートナーの筧一彦氏は話す。

ヒラクゲートには、オフィスビルには珍しい、装置や薬品を使った科学実験が行えるウエットラボがある。排水は地下のタンクに集められ水素イオン指数(pH)をチェックして中和するなど、適切に処理する。大容量電源や耐荷重フロアといった機能も備える。

入居者同士で交流

コワーキングスペースは、ベンチャー企業の社員らが議論を交わし、活気にあふれていた。出版社のビルらしく、壁一面に設えられた書架が目を引く。会議室やイベントスペースがあるほか、自社のサービスや製品の説明動画を撮影できるスタジオも今後整備されるという。

起業家や投資家、学生らの交流を促すラウンジは、全面ガラス張りの吹き抜けがある開放的な空間となっている。東大IPCの西村東子マネジャーは「ベンチャー企業には経営者や技術者だけでなく、広報や人事などバックオフィスを担当する人もいる。日々の業務の悩みを共有したり、気軽に相談できるのはリアルな場があってこそ」と、施設の意義を強調した。

取材当日は、オープン1年を祝うパーティーが開かれており、関係者らがビールを飲み交わし、ラウンジに併設されたテラスでバーベキューを楽しみながら、話に花を咲かせていた。

ヒラクゲートを構想した啓林館の曽川誉章(たかあき)代表取締役は「このビルから世界に羽ばたく会社が出てきたら面白い。今後は事業など、さらに支援する術を考えていきたい」と目を輝かせた。(松田麻希)

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