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夏休みの学童保育 広がる昼食提供 保護者のニーズ大きく 安全面で二の足踏む自治体も

産経ニュース 2024年8月10日 14時42分

共働き家庭などの小学生を預かる放課後児童クラブ(学童保育)で、夏休みに利用する子供たちに昼食を提供する動きが広がっている。保護者の負担軽減につながるためニーズは大きいが、食中毒など安全面の不安から二の足を踏む自治体もあり、対応は分かれている。

「いただきまーす!」。5日正午。東京都港区が設置している「芝浦アイランド児童高齢者交流プラザ学童クラブ」で、小学生約20人が宅配弁当を食べ始めた。メニューは日替わり。この日はエビフライ、チキンカツ、ひじき、目玉焼きなどだった。

1個540円で、決済は保護者がオンラインで済ませている。主任の竹内尚子さんは「保冷剤まで業者が用意してくれるので安心だ。ただ、量が高学年に合わせられていて、低学年は食べきれないこともある」と話す。

都内では北区や葛飾区の学童保育でも同じ仕組みで昼食を用意している。

2割超が提供

千葉県流山市の男性会社員(47)が小2の長男を預ける学童保育の施設では、希望者が1食450円の弁当を注文できる。「共働きなので、家事負担が減るのはありがたい」と話す。

政府の労働力調査によると、共働きは令和5年に約1278万世帯。年々増えており、学童保育の需要は高まっている。

こども家庭庁によると、長期休暇中に昼食を提供している学童保育は、その有無を把握している995自治体1万3097カ所のうち22・8%の2990カ所(令和5年5月1日時点)。提供の動きは広がっているという。

この夏休みに週3日ほど昼食の提供を始めた滋賀県野洲(やす)市が令和3年度におこなった保護者アンケートでは、87%が「利用したい」と回答。ニーズの高さをうかがわせる。

アレルギー反応

一方、昼食を提供していない自治体にも理由がある。さいたま市の「大砂土放課後児童クラブ」は夏休み中の昼食を提供していない。クラブ長の小林早苗さん(67)は「アレルギーや好き嫌い、食事量に違いがある。食中毒も怖いので、お弁当を持参してもらっている」と説明する。

平日の利用児童は50人超。ほとんどの子供たちが弁当を完食できるため、残飯やごみを減らすこともできる。「家庭とクラブ、双方にとって効率的」(小林さん)だ。

実際、昼食の提供でトラブルも起きている。この夏休みから試行的に始めた横浜市では7月29日、卵アレルギーがある児童が昼食の約1時間後に嘔吐(おうと)した。委託業者が作成した献立表のアレルギー品目の記載漏れが原因だった。

横浜市の担当者は「改善を重ね、来年度の長期休暇期間にも昼食提供を実施したい」と話した。(堀川玲)

「施設がどこまで担うか議論を」

学童保育での昼食提供を巡る課題などについて、住野好久・中国学園大副学長(教育方法学)に聞いた。

子供たちには、安全で栄養バランスのよい食事を提供することが大切だ。しかし、共働き世帯で仕事と弁当づくりを両立するのは容易ではなく、学童保育には家庭に代わって食事の提供が求められるようになった。

調理設備があり、専門職員がいる学童保育は多くはないため、弁当を業者に注文して配達してもらう形で昼食を用意することになる。その場合、代金の徴収や届けられた弁当の安全な保管、トラブルが起きた場合の対処など、学童保育にさまざまな業務が生じる。少人数の指導員だけで運営する施設では、これを負担することは困難だ。施設や市町村によって対応に差が出てしまう。

学童保育が保護者の要求にどこまで対応していくかは意見が分かれる。食事の問題だけでなく、遊びや学びといった学童保育の内容すべてに言える。保護者、自治体、国などが議論を深め、社会的な合意形成をすすめなければならない。学童保育の数を増やすだけでなく、質を高めなければ、少子化対策の一環として効果を上げることは難しいのだから。(談)

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