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後絶たぬ学校現場での個人情報漏洩、教員へのルール浸透に課題 5年度は218件発生

産経ニュース 2024年8月27日 20時55分

学校現場で子供たちの個人情報が漏洩する不祥事が後を絶たない。昨年度の発生件数は全国で200件超に上り、持ち出し禁止などのルールが守られず、漏洩につながったケースも多い。夏休みが明けて学校が本格的に始まれば、リスクは再び高まるため、警戒が必要となる。

ヒューマンエラー

「どうすればヒューマンエラーをなくせるのか、考えていきたい」。市立中学校で生徒の個人情報の漏洩が立て続けに発覚した札幌市教育委員会の幹部はこう語った。

漏洩が起きたのは4月のことだ。教員が、生徒267人の学習上の配慮事項や家族状況、友人関係などを記した内部資料を体育館に置き忘れ、複数の生徒が閲覧できる状態に。画像は交流サイト(SNS)にも投稿され、「低学力」「母親うるさい」などといった記述があったことで、保護者から批判が相次いだ。

約1カ月後には別の市立中でも漏洩。教員が教室の教卓に生徒の個人情報を記した書類を放置し、生徒が目にした。

市は令和3年に学校向けに個人情報の管理方法などのルールを示した指針を定めていた。両校とも管理職の許可なく職員室から持ち出してはならない書類だったが、無許可で持ち出されていた。市教委は全ての教員を対象に個人情報管理の研修を毎年実施するなどしていたが、漏洩を防ぐことはできなかった。

電子化でリスク減

文部科学省は自治体に情報管理の指針策定を求めており、多くの自治体が管理方法を定めている。それにもかかわらず、後を絶たないのは一部の学校現場にルールが浸透していないためだ。

1月には、横浜市立中で、教員が自宅で採点するため、管理職の許可を得ずにテストの解答用紙を持ち出し、電車内に置き忘れて紛失した。こうしたルール違反は後を絶たない。山梨県甲斐市では昨年、家庭訪問のために無断で持ち出した書類が強風で飛ばされて失った。北九州市では一昨年、私物のUSBメモリーを無許可で使って校外でなくしている。

教育関係者らに情報管理を啓発する教育ネットワーク情報セキュリティ推進委員会が6月に公表した調査結果によると、令和5年度に学校や公的教育機関などで発生した個人情報漏洩は218件(13万9874人分)。

調査に携わった同委員会の井上義裕副委員長は「学校現場に情報を紙の書類で管理する文化が根強く残っていることも漏洩事故が減りにくい一因」と指摘する。その上で「管理の電子化によってセキュリティーを多重化することが漏洩リスクの低減に効果的だ。パソコンを校外に置き忘れたとしても第三者が容易に情報を閲覧することはできなくなる」と話した。

スキル向上不可欠

学校現場には、加速する教育のデジタル化に伴ってより慎重な個人情報の管理が求められるようになっている。

政府の構想では、ICT(情報通信技術)を駆使して子供たち一人一人から集めた学習履歴などの教育データを分析することで、それぞれに応じたきめ細かな指導を可能とする。タブレットを使って心身の状態を回答させ、いじめや不登校を防ごうとする試みもある。

授業では生成人工知能(AI)の活用も模索されているが、個人情報を入力すると機械学習に利用されて情報が漏洩する恐れが指摘されている。

こうした状況に対し、一部の学校現場には心もとなさがある。昨年夏、長野県の2つの県立高校でパソコンに無断で外部ソフトがインストールされ、過去の在校生も含めて計1万人以上の成績などが外部からアクセス可能な状況となった。検証によると、端末にはインストール制限機能があったが、学校側が設定を怠っていたという。

デジタル化の効果を最大限に引き出すためには、教員のスキル向上が不可欠といえそうだ。(玉崎栄次)

「ミス前提にリスク低減の工夫を」 星野豊・筑波大教授(法律学)の話

学校が管理する個人情報の流出は、全体から見てわずかな割合であっても、生徒や保護者と学校との信頼関係が失われる恐れがある。

現在の学校は、情報管理の専門職を個別に配置することが難しく、扱われる情報の内容から考えると、管理を外注することにも不安が残る。

将来は、情報管理の基本的な知見や技術を学校教育で全員が習得することになるだろうが、過渡期である現在は、人はミスをするものであるとの前提に立ち、事故が起きた時の損害を最小限にする工夫が必要である。

例えば、情報を種別や内容ごとに分けて管理し、一部の情報が流出しても全体像が直ちに判明しないようにしたり、過失による流出については再発防止を優先させて処分を猶予したり、情報を受け取った側に合理的な対応や配慮を求めることなどは、検討の余地が大きいと思われる。

これらの検討は、個人情報保護を巡る法制度の改正論議を伴うものであり、社会全体で情報を適正に管理する体制の在り方が積極的に議論されていくべきである。(談)

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