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「うみって、しょうゆラーメンのあじ」 夏の思い出づくりは親の宿題…いくつできたかな 息子は4歳 還暦パパの異次元子育て

産経ニュース 2024年9月2日 8時0分

遅ればせながらパパになったベテラン新聞編集者が、還暦を迎えて4歳の息子の子育てに奮闘中。笑顔と驚きに満ちた日々を、あるがままに綴ります。

「うみって、しょうゆラーメンのあじがするんだね」

台風はまだ遠かったが、やや高くなった波の谷間で、息子はしっかり浮輪をつかんでいた。生まれて初めて、がぶっと海水を飲み、砂浜にひきあげて思わずもらした言葉だ。

4歳児の語彙力は1500~1700語だという。いつの間にか、その日に保育園であった出来事を話してくれたり、好き、嫌いの理由を話せたりするぐらいの日常会話が成り立つようになっていた。

「海水=しょうゆラーメン」のたとえに、大人は笑ってしまうが、彼の限られた体験の中で浮かんだ最も的確なたとえなのだろう。そして、その語彙力を増やしてあげられるような感動や体験をいくつ提供できるかが、パパとママの「夏休みの宿題」となった。

豪華リゾートじゃないけれど

家族で出かけた千葉県南房総市の岩井海岸は、昭和20年代から夏になると臨海学校の学生でにぎわう海水浴場だ。半月状の砂浜が3キロ近く続き、広々として牧歌的。民宿直営の海の家では、とれたてのカマスの天丼、イサキの刺し身、そして本物のしょうゆラーメンを堪能した。

泊まったのは、お隣の鋸南(きょなん)町にある自然の家。東京都足立区の施設で、区民なら、臨海学校などで使っていないときは抽選で利用でき、1泊2食で大人4150円、3歳から中学生は2000円。再雇用で年収減の還暦パパの懐には大助かりだ。

合宿仕様の広々とした畳の部屋の真ん中に親子3人の布団を敷くと、学生に返ったような気分に。

厳密にいうと、息子が〝海水〟を口に含んだのは初めてではない。今年の春、東京・品川の水族館。海水プールを縦横に泳ぐイルカがショーの途中、尾びれで盛大に水をかける芸を見せた。最前列にいて頭からズブぬれになり、驚いた息子は「うわーん」と大泣き。コンビニエンスストアには子供用シャツがなく、肌着1枚のまま帰宅したのは、ついこの前のことだったのに。

でも夏になると、海水を浴びても飲んでも、もう泣かなくなった。ぷかぷか浮くことに大喜び。本当に成長は早い。豪華なリゾート地に行かなくても(行けなくても)、工夫次第で経験値を重ねる後押しをしてやれそうだ。

いとおしい時間よ、止まれ

今年はおむつを卒業し、トレーニング用のパンツをはきながら、自宅や保育園の洋式トイレで座って用を足せるようになった。だが実を言うと、男子トイレで立って用を足すことについては、「ちょっと怖い」とためらっていた。

それも海水浴場の公衆トイレで克服することができた。がまんの限界で、やむにやまれずだったが…。

昭和生まれのパパは和式トイレで育ったので、「小」は立って用を足すことを、「大」のしゃがみ方より先に覚えた。今の男の子は順序が逆というのも、世代を感じる。

夏の終わり、会社の健康保険組合が契約する保養所へ出かけた。静岡県の伊東温泉郷を見下ろす高台の窓から、花火を待ちながら親子で寝そべっている黄昏(たそがれ)時を、実にいとおしく感じた。

もっと早く成長してほしいが、いまこの時のまま、止まってほしい。このアンビバレンス(両価感情)は、幼い子の親に特有なものなのだろうか。

花火に興奮し、どっと疲れた息子は早寝した。眠りについてから、パパの腹を何度も足蹴にしたり、自分の足をもぐりこませたりしてくる。育児書によると「胎内回帰」の現象らしい。父親でもそんな経験を味わえるとは。夏のいい思い出になった。

中本裕己

なかもと・ひろみ 昭和38年生まれ。前「夕刊フジ」編集長。現在も編集者として勤務。著書に『56歳で初めて父に、45歳で初めて母になりました』。

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