「知的な楽しさを得られるようにする」。全員が中学受験をすることでも知られる洗足学園小学校の教育の柱はそこにある。
ICT(情報通信機器)の積極的な活用でも知られ、アップルが初等・中等・高等教育現場の変革につなげるために1995(平成7)年に創設したプログラム「Apple Distinguished School」(ADS)の認定校指定を受けた。
きっかけはランドセル
もともとは紙の教科書が詰まった重いランドセルを軽くしたいという発想がICT導入のスタートだったが、教育への活用を進めることで大きな変革を生んだ。導入前の授業ではプリントを配り、児童に名前を記入させ、解答後に回収し、名前の有無を確認し、先生が丸つけをする。タブレット活用によって配布などの手間が省け、一連のやり取りに費やす時間は1年間で43時間も短縮できた。
児童の意見を聞く風景も変わった。一般的には児童が手を挙げて先生の指名で起立し、発言して自席に戻っていたが、ICT導入で、児童全員が手元の端末に入力した意見が瞬時に共有できるようになった。
同小の赤尾綾子教頭は「余分にできた時間を、子供たちが社会のリーダーとして活躍できるような力を育てるように使おうと方向を変えていった」と説明した上で、こう指摘した。
「子供たちも、ICTを活用した学びによって、主体的に学び始めた。勉強が楽しいという子が増えて、自ら勉強したり、勉強を深めたいという子が増えた」
創意工夫を重視
その変化は中学校入試の勉強で表れている。詰め込み勉強が必要とされてきた時事関連の学習ではニュースをテーマにパワーポイントでプレゼンテーションの資料を作ったり、動画の「ニュース番組」を作成したりして、クラス内で共有する。作品をみることでニュースの情報を吸収することができ、そこには詰め込み勉強に伴いがちな「苦行」という感覚はない。
自ら考え、工夫するクリエイティブな活動に重きを置いたICT活用の成果は、例えば、プレゼン力でも如実に現れている。
47都道府県のことを学ぶ4年生の授業で、各都道府県のプレゼンに1人担当が割り振られる。教科書に書かれている各地の特産を知るだけでなく、気候、歴史的な背景を紐づけて理解、分析。発表の舞台はクラス、学年全体、全校が用意され、プレゼン力が磨かれていく。
「その気にさせる」
思考力、創造力、コミュニケーション力、チームワーク力。各学年の各教室に掲示されている「4つの力」だ。「将来の社会のリーダーを育成する」ことを教育の柱に据える同小が米アップルの認定を受ける際、具体的な育成ポイントとしてこの4つを掲げた。
全員が中学受験をし、私立、国立を問わず国内の有名中学校への進学実績が生み出されているのは、こうした仕掛けがあるからだ。
洗足学園中高で教鞭をとった経験もある田中友樹校長は、受験は社会のリーダーに必要なスキルも身につく機会だといい、「それは学力だけでなく、時間管理、気持ちのコントロールの仕方です」と語る。
田中氏は言う。
「以前は教員が主導権を握って、(勉強を)やらせていた。でも次のステップは教えることよりは、児童をいかにその気にさせるか、学びに向かわせるか。本校はいま、その地点にいる」(大谷卓)
=(おわり)
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今後も児童・生徒たちの学力を伸ばすために創意工夫する神奈川の教育の現在地を随時、紹介していきます。
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洗足学園小学校
昭和24年に開校。児童数は451人。平成14年に「附属」を外し、現在の校名に改称した。小学校6年間で、社会のリーダーの礎を築くことを目標とし、育てたい能力として「思考力」「コミュニケーション力」「チームワーク」「創造力」を掲げる。丁寧な進路指導で、全員が中学受験に挑む。令和5年度でみると、男子が開成、海城など、女子が桜蔭、雙葉などの名門校への合格実績がある。