この時期になると、「過去問で点が取れない」という悲鳴が出てきます。早めに安心したいと思う気持ちで挑んだ過去問ですが、安心どころか壊滅的な点数になることが多いのです。特に算数と国語でこの傾向があります。
ネット検索で同じ悩みを持つ人を探すと山ほど同じ悩みの人が出てきます。なんだ、みんなそうなんだ、良かった、とはならない。いつもは周囲と足並みを揃えたがる人たちも、受験本番を間近に控えたこの時期は、抜け駆けしたくなるのです。
何が原因なんだと考える暇もなく、ネットに出てくるたくさんの「終了組」と呼ばれる人たちの答え、「過去問は相性です」を鵜呑みにします。なるほど、この学校はうちの子と相性が合わないんだ、それじゃ志望校の変更も視野に入れなければ……ということになります。このあたりから少し戦略がずれ始めていることに気づいてほしいのです。
算数を例にします。お子さんは100の知識を手に入れた状態。つまり、4年生から頑張ってきたこの2年半ほどで、100種類のスキルを手に入れた状態としましょう。ところが、過去問に顔を出すのは、計算問題と小問がいつくか、そのあとに大問が3つほど。このうち、大問2つが100のスキルから外れていたら合格者最低点には到達しません。
志望校のレベルを少し下げると、問題がやや簡単になるかもしれません。しかし、スキル外であれば少しレベルを下げた程度では及びません。つまり、スキルの数が少ない場合、入学試験(過去問)は「運」なのです。毎年毎年、びっくり合格なんて話がありますが、出題とスキルがピタッとハマったのでしょう。まさにその学校に愛されたということ。これを相性という言葉で表現しているのでしょう。
とすると、人間関係では相性の良い人を探すことになるのでしょうけれど、受験は違います。相性の良い学校を探すのはナンセンス。あと2か月か3か月、1つでも多くスキルを増やし、愛される学校を増やすことに全力を注ぐべきなのです。
ラストスパートはとても不思議なのです。今まで頑張って勉強してきた知識が突然「ヒュッ」と乱気流を抜け視界良好、横でつながった感じになるのです。1つ1つの事柄として頭をカキカキ考えてきた、仕事算・ニュートン算・旅人算・通過算・流水算が横でつながります。はっきりと口では説明できないけれど、『単位当たり量』という概念に気づいたのでしょう。
今まで悩み続けた平面図形、出来なくて復習を繰り返した相似の問題。相似を見つけるというより、この辺の比を知りたいから、そこに関係する相似がないかと考えるという逆からの発想になる。自分ではあまり気づいていないのに知識が横でつながり、知識の重量が減るのです。この分岐点が受験より前に来れば志望校に合格。後に来れば他校に進学して仕切り直しということになるのです。
解いて解いて解きまくる。それでは見えないことがたくさんあります。焦る時期だからこそ、知識を確実に積み上げたい。そうすると、じっくり振り返ることも重要です。
そして、何事も慣れが必要。特に過去問は時間配分と配点の積み上げを知っていないと満足な結果になりません。入学試験を受けるのは本人ですから、塾の講師が知っていてもダメなんです。親が知っていてもダメ。本人が習得していないと本番で右往左往して終わります。「だから言ったのに」は何の意味もない声かけになるのです。
筆者紹介
桜井信一(さくらい・しんいち) 昭和43年生まれ。中卒の両親のもとで育ち、自らも中卒になる。進学塾では娘の下剋上は難しいと判断、一念発起して小5の勉強からやり直し、娘のために「親塾」を決意。最難関中学を二人三脚で目指した結果、自身も劇的に算数や国語ができるようになる。現在は中学受験ブログ「父娘の記念受験」を主宰、有料オンライン講義「下剋上受験塾」を配信中。著書に、テレビドラマ化されたベストセラー『下剋上受験』をはじめ、『桜井さん、うちの子受かりますか』、馬淵教室と共著の『下剋上算数』『下剋上算数難関編』などがある。