父親の育児を支援する活動を行う「パパライフサポート」の代表、池田浩久さん(47)の名刺には「四児の父」という肩書が記されている。システムエンジニア(SE)から転身した末にたどりついた現在の生活は、パートナーへの共感から生まれた。
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育児は任せきり…妻が「つらい」
長女の誕生後、妻が産後うつになったんです。私たち夫婦は同じSEで平成18年に結婚したのですが、地域に知り合いもいない。私は土日に仕事をすることも多く、育児は妻に任せきりでした。それで、ある日妻から「誰とも話せず、つらい」と言われたのです。
以来、毎日会社の昼休みに電話をして話をするようになりました。妻も少しずつ回復した。外に出るようになり、友達もできた。そのころ、会社で男性育休取得の第1号となりました。
夫婦ともに仕事を持ち、家事も協力してやっていたので、何より妻のフォローが大事だと思ったのです。ただ、育休から復帰した後も仕事の忙しさは変わらない。定時で帰れるようになるのは第2子の育休を取得してからのことです。結局、第3子が誕生した後、仕事と育児のバランスを取るのが厳しくなり会社を辞める決断をしました。
父親を孤立させないネットワーク
子育てに協力してきた実体験から、父親が子育てについて学ぶ機会がもっと必要だと感じていました。外出先でおむつ替えの場があまりないこともそうですが、父親の育児環境に課題が多いことも痛感しました。それで声を上げていく活動を始めることにしたのです。
今の「パパライフサポート」を起業したのは41歳のときです。私が自治体や企業に出向くなどして、父親の育児を巡る講座や研修を行ったり、大学で若者向けの講演をしたりしています。男性の育休取得率は令和5年で30・1%(厚生労働省調査)ですが、もっと取得しやすくし、父親を孤立させないようなネットワークも作りたい。父親が当たり前に子育てできる社会にしたいんです。
今妻は管理職となって仕事が忙しい。子供の塾の送り迎えや家事は私がすることが多いです。ただ、互いに協力・応援しながら生活できている。妻も私の活動の広がりを自分のことのように喜んでくれています。
「周囲に頼っていい」と意識変えて
「男性は仕事、女性は家事育児」という考え方は、男性の長時間労働や女性の子育て負担を増やす。そして結果的に少子化と人口減社会にもつながっていく。子育てをすれば男性も身近な幸せを感じられるし、地域で居場所や仲間をつくることにもなるので自身の新たな価値にも気づけます。
子育てに悩むお父さんは「周囲に頼ってもいいんだ」と意識を変えることも大切です。国際男性デーが父親の育児を考える機会にもなるとうれしいです。
(聞き手 三保谷浩輝)
池田浩久
いけだ・ひろひさ 昭和52年、福岡県生まれ。大学卒業後に上京し、通信設備会社でシステムエンジニアに。子育て支援のNPO法人に転職後、パパライフサポートを起業した。現在、同代表やNPO法人ファザーリング・ジャパン副代表も務める。
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11月19日は男性の健康や幸福に目を向ける国際男性デー。多様性の尊重が叫ばれる令和の時代、男性の生き方にも異なる角度から光が当たり始めている。病、夫婦関係、働き方、家族のあり方-。きっかけを得て価値観を転換し、人生を見つめ直した男性たちに話を聞きます。(随時掲載)