日本の研究力低下が指摘される中、大学の組織運営や研究資金獲得などの「研究外業務」に忙殺され、研究に集中できていない研究者のバックアップ体制構築に向けた議論を文部科学省が進めている。国立大の機能強化のために文科省が設置した検討会が昨年末にまとめた論点では、研究資金獲得などを専門的に行う人材を配置する「高度な研究マネジメント基盤」の必要性を明記。令和7年度予算案に関連経費を盛り込んだほか、同年度中に方向性をとりまとめる。
組織運営に忙殺、研究時間は大幅減少
国立大は、競争原理の導入などを目的に平成16年4月に法人化された。以降、国が大学の規模に応じて配分する「運営費交付金」が人件費などの基盤的経費となっているが、国の財政難などを理由に縮小が続き、令和6年度は総額1兆784億円と平成16年度に比べ13%減少。近年の物価高騰のあおりも受けて各大学の財務状況は厳しい。
この間の研究力低下も著しい。文科省の科学技術・学術政策研究所が昨年8月に公表した「科学技術指標2024」では、質の高い研究の指標とされる注目度が高い論文の数で前年と同じく過去最低の13位。順位は、国立大法人化前後から凋落(ちょうらく)が始まっている。
文科省の調査によると、国立大教員の職務時間に占める研究時間の割合は法人化前の14年度は50・7%だったが、30年度には40・1%まで減少した。この調査とは別に文科省が実施した教員の意識調査では、研究時間を制約する要因として最も高かったのが「組織運営のための会議・作業」で77%。「研究費獲得のための申請書類作成」も59%に上った。
法人化に伴い比重の増した科学研究費助成事業(科研費)などの競争的資金は、16年の1205億円から令和4年には3520億円と約3倍となった。研究者には事務作業や後進育成に加えて資金獲得の手続きも重くのしかかり、研究時間が削られて論文作成などに影響が出ているとの声は根強い。
国立大法人化から20年で時代転換
文科省の担当者は「研究者の業務量の増加については、制度に起因するものと、競争の激しい社会経済情勢の変化に起因するものと分けて考えるべきだ」との立場だ。
とはいえ、法人化に伴う財政状況悪化や研究力低下の懸念を受けて、文科省は昨年7月、国立大学の機能強化に向けた検討会を設置した。
検討会では、「先端的な研究を進めることは、国立大学の重要な役割だ」との指摘があった一方、「(法人化された)この20年で大きな時代転換があった」などと、法人化以降の国立大が、時代に沿った運営をできていない可能性を示唆する発言があった。こうした議論を踏まえ検討会が昨年末にとりまとめた論点には「高度な研究マネジメント基盤の構築を行う必要がある」と明記した。
また、文科省の別の会議体も、「研究者の研究時間確保のためだけでなく、国際的に通用する研究を展開していけるよう、研究開発の一翼を担う重要な機能として、研究マネジメント機能が必要」と指摘。研究資金獲得のためなどに動く高度な専門人材を大学に配置することの重要性が論じられた。文科省の令和7年度予算案にはこうした人材育成のための新規事業として5億円余りを計上している。(楠城泰介)