関西大学は、大阪公立大学と連携し、大阪を拠点に社会を変革する人材の育成に乗り出す。文部科学省が今年度から開始した「大学の国際化によるソーシャルインパクト創出支援事業」(タイプⅠ:地域等連携型)に採択されたプロジェクトを通じて、日本人と外国人の学生がそれぞれの文化的多様性を生かしてともに学修する「多文化共修」を実践。2025年大阪・関西万博に向けて国際都市として成長する大阪の特性を生かし、大阪から世界に貢献するリーダーを育てることで日本社会全体にインパクトを与えることを目指す取り組みだ。プロジェクトの狙いを関西大学の高橋智幸学長(社会安全学部教授)と竹内理副学長(国際部長・外国語学部教授)に聞いた。
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「関西大学の強みは一言で言うと、多様性」と高橋学長。大阪府吹田市の千里山キャンパスを中心に府内の4キャンパスに13の多様な学部を設置し、今年4月には吹田みらいキャンパスにビジネスデータサイエンス学部を開設。全国から学生が集まり、留学生や社会人も積極的に受け入れている。支援事業に採択された「大阪・チェンジメーカーズ:課題主導の社会的インパクト共創教育プロジェクト」によって、その多様性をさらに高める考えだ。
チェンジメーカーズとは、社会の課題を自分ごととして捉え、社会に変化を起こす人のこと。プロジェクトでは、異なる文化的背景を持つ人々が互いに学び合い、ともに成長することを目的として多文化共修に大学を挙げて取り組む。
多文化共修の科目では、異なる言語や文化を持つ学生や教員が一緒に学ぶことで、多文化的な視点を身につける機会を提供。異なる背景を持つ者同士が意見交換や共同作業を行うことで新しい発見や気づきが生まれ、異文化間の協力を通じて課題の解決策を模索するプロセスを学ぶ。
オンラインも活用。海外の連携大学が提供する科目に関西大学と大阪公立大学の学生が参加し、渡航型の研修と組み合わせる。
支援事業は、さらなる大学の国際化の推進、日本人留学生の派遣、優秀な外国人留学生の受け入れ・定着が相互に作用する好循環の創出を目的とし、期間は令和11(2029)年度までの6年間。関西大学では、昨年度は43科目だった多文化共修科目を事業の最終年度には571科目にするという目標を掲げている。また、日本人学生の海外留学を949人から2088人に、外国人留学生を1970人から2876人にすることを目指す。
プロジェクトには「学の実化(じつげ)」という大学の理念も反映させる。学の実化とは「大学は教育研究に実社会の知識や経験を取り入れ、社会は大学の学術研究の成果を取り入れることによって、『学理と実際との調和』を求める考え方」というものだ。
この理念に基づいた地域との連携が大学の特色でもある。「地域の課題を理解した上で留学生と一緒に解決策を考え、社会にインパクトを与えていくのがプロジェクトのポイント。課題解決能力の高い学生を輩出して、大阪発の成功事例にしたい」(高橋学長)と意気込んでいる。
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プロジェクトでは、優秀な外国人留学生の大阪でのキャリア形成にも取り組む。その背景には、国際観光文化都市となりつつある大阪に必要な人材を国内外から集めて育成し、輩出するという狙いがある。
関西大学では、これまでにも多様な留学生のキャリア形成事業を強化してきた。新たにグローバル展開事業に必要な人材層を積極的に受け入れ、文化や組織、国境などを越えて外国人と日本人の学生が共に学ぶ「越境学習」を通じて、企業の内定へとつなげるプログラムを実施する。
「大学の中で日本人と外国人の学生が一緒に学ぶことによって、視点の変化が生まれてくると考えている」と竹内副学長。「それで終わるのではなく、高度な専門知識を持った留学生に定住してもらい、日本企業で働いて、日本社会に貢献してもらう」というのが目標だ。
日本でのキャリアを志望する学生を受け入れ、また一方で、関西大学と大阪公立大学の学生を送り出すために海外の大学との連携も進める。すでに東南アジアや環太平洋などの大学や国際機関と合意済み。今後は南米や東欧、中央アジアでの連携も開拓する方針という。