赤チョークの使用は原則禁止-。黒板の深緑色と赤色チョークの配色が見えづらいという見え方の特性を持つ人たちに配慮して、赤チョークを使わない、という取り組みが広がっている。かつて行われていた学校健診での色覚検査が希望制に変わり、すでに約20年。人によって見え方はさまざまだが、全ての人に伝わる色使いを模索する試みに、共感が広がっている。
予備校で赤色禁止令
11月上旬。大阪市北区の大手予備校「河合塾」大阪校では数学科講師、上高原亮さん(46)が黒板にチョークを滑らせ、数式やグラフを書き上げていた。
大事な要素は目立つように蛍光ピンクや黄、だいだい色を使う。「僕自身、色覚異常で黒板の赤は全く見えない。自分が見える黒板づくりを心掛けてきた」と上高原さん。
小学4年のときに学校健診で受けた色覚検査で自身の特性を知るまでは教諭が赤チョークで書く文字がわからず「覚えるべき箇所を、わざと見えづらくしていると誤解していた」という。
自らが教える立場になり、授業で生徒に自分のような不便な思いをさせない色使いを心掛けるとともに「ここは黄色で書く」など口頭でも伝えるようにしているという。
河合塾によると、約20年前から黒板の見え方について配慮する動きが広がり、平成26年には塾全体で赤チョークの使い方について配慮するよう全校舎へ通知。さらに、今年4月から赤チョークの使用の原則禁止を通知したという。こうした取り組みを塾関係者がX(旧ツイッター)に投稿すると、共感のコメントが相次いで書き込まれた。
尼崎市では全校で使用
学校現場では従来のチョークより色の違いがはっきりとわかる「色覚チョーク」の導入が進んでいる。兵庫県尼崎市では平成30年、黒板を使用している市内の公立全小中学校58校に従来のチョークから色覚チョークへの切り替えを呼びかけ、現在は全校で色覚チョークを使用している。
市教育委員会の担当者は「教員の間でも色覚に配慮する意識は深まっている。見え方にかかわらず、わかりやすい板書を心掛けている」と説明する。
色覚異常は見え方の個性だという受け止めも、この20年で広がった。色覚の「異常」「障害」という呼び方から「色覚多様性(特性)」という表現も生まれ、誰もが見えやすい配色を用いたデザイン「カラーユニバーサルデザイン」も浸透している。
色覚検査は希望制に
日本眼科医会の資料などによると、男性で約20人に1人、女性で約500人に1人の割合で色覚異常の人がいるとされるが、学校健診で受けた色覚検査は、プライバシーの観点などから見直され、平成15年度以降は希望者へ実施する形になった。色覚異常を理由に進学や就職を制限されることはほとんどなくなったが、仕事のなかでは色の見分けが必要な業務もある。
日本眼科医会の担当役員は、「自分で気づくことは難しいこともあり、検査で色覚の特性を知ることは学校生活やその後の進路を考えるうえでも大切だ」としたうえで、「板書する人は目立たせたい箇所は赤ではなく、波線や二重線を引くなど、工夫を重ねてほしい」と話した。(木ノ下めぐみ)