公立学校教員の処遇改善を巡り、文部科学省と財務省が令和7年度予算編成で対立している。文科省は条件なしの給与増を求め、財務省は働き方改革にまず取り組むべきだとする姿勢だ。処遇改善という「目的」では両省は一致しているが、その「方法」の違いから溝が深まり、妥協点が見いだせない状況が続いている。
一律支給に財務省が難色
対立の発端は、残業代の代わりに、基本給の4%が一律支給されている「教職調整額」だ。
調整額は昭和46年に制定された教員給与特別措置法(給特法)に基づき支給されているが、その根拠は41度年の平均残業時間の月8時間程度で算出された。ただ、半世紀が経過。令和4年度の調査では、教員の残業は、小学校で月41時間、中学校では58時間に上る。
このため、文科省は休息時間を明確にする「勤務間インターバル」の導入などの働き方改革の推進とともに、現在の残業実態を反映して来年度予算の概算要求で調整額を13%に引き上げることを盛り込んだ。
これに、財務省が「待った」をかけた。
財務省は、残業時間削減などを条件に、5年程度かけて調整額を10%まで引き上げ、その後は残業代を支給する制度への移行も検討する案を示した。残業時間抑制を前提としており、教員の働き方改革推進の「強力なインセンティブ付け」となるとする。
一律支給に難色を示した背景には、教員の働き方改革を十分に進めてこなかった文科省への不満もあるとされる。
文科省は反論の見解を公表
文科省は、財務省案に猛反発。財務省案は教員の定数増などに触れておらず、労働時間を短縮するだけでは「教員の質が低下する」と訴える。
阿部俊子文科相は12日の定例会見で、「教職員定数の改善も行わず、時間外の在校時間の縮減を教職調整額の引き上げの条件とすることは乱暴な議論だ」と批判。文科相も務めた石川県の馳浩知事も、21日の定例会見で財務省案について「ちびちびとしたやり方に腹が立つ。定数改善とセットで取り組むべきだ」と述べた。
文科省は、反論の見解をホームページで公表する異例の対応を取るなど徹底抗戦の構えを見せている。
一方、13%引き上げの文科省案が実現した場合は、国と地方合わせて年5600億円の負担が増える見通しで、全国知事会は21日、「財源確保の見通しが示されていない課題がある」と文科省に緊急提言。財務省案でも年3700億円が必要になるとされる。
また、今年10月の衆院選で与党が過半数割れに追い込まれ、予算案も野党協力なしでは成立できない状況となったが、その野党も、それぞれの教員の処遇改善策を打ち出している。両省の「綱引き」は予算案が決まる年末に向け、政治情勢なども絡んで激化しそうだ。(楠城泰介)