Infoseek 楽天

「PTA解散」の波紋 退会止められなかった岡山県連合会の苦悩 広がる保護者負担見直し

産経ニュース 2024年9月30日 7時0分

岡山県内の公立小中学校の保護者らでつくる県PTA連合会が今年度末での解散を発表し、波紋が広がっている。文部科学省によると、都道府県レベルのPTA組織解散は全国初。加盟団体や会員数が減少して組織の維持が難しくなったためだが、同様の動きが他のPTA組織にも波及するのか、関係者は注視している。

最盛期は18万人

「昔のやり方を踏襲してしまった。私たちの力が及ばなかった」。同連合会の神田敏和会長はホームページでの解散発表後、こう話してうなだれた。

昭和23年設立の同連合会は、岡山県内の郡市のPTA組織をつなぐ会議を開いて課題を共有するほか、県教育庁への要望や講師を招いた研修会開催などを担ってきた。

平成20年度には県内全21郡市のPTA組織が加盟し会員は約18万人を数えたが、近年は大幅に減少。昨年度から今年度にかけて加盟組織は半減して5郡市となり、会員も約9800人に減っていた。運営費は加盟組織が会員数に応じて払う年会費(1人当たり130円)と積立金で賄われており、2年ほど前から資金の枯渇が危惧されていたという。

「メリット感じない」

PTAを巡っては、共働き家庭の増加などで負担感が増し、小中学校単位の組織でも役員のなり手が減少。任意加入であることを明確にした結果、会員数が減るなどの課題も浮上している。

神田会長によると、同連合会を退会した組織からは「会議に参加しても、あまりメリットを感じない」との意見があった。市町村単位で課題や要望は異なるとして、県教育庁への要望は10年ほど前から行っていなかった。事務局職員をパート勤務に切り替えるなど経費節減に努めたが「このままでは立ちゆかなくなる」とみて今年3月、解散を提案した。

神田会長は「情報伝達中心の運営を見直し、意見交換を含めた交流を増やすよう努めてきたが、退会の流れを止められなかった」と悔やんだ。

大阪府PTA協議会の事務局長は「似たような状況は大阪にもある」と明かす。「楽しんで一生懸命活動している人もいることは知ってほしいが、世の中が変わってきた。時代に応じた活動のあり方を考えなければならない」

同連合会の神田会長は「効果的に活動し、教育委員会などと協力して意義ある事業をしている都道府県のPTA組織はたくさんある」と強調し、「解散の流れが続かないでほしい」と語った。

役員選出は立候補制に

かつてのPTAは子供の小学校入学と同時に半ば強制的に加入させられた上、会費徴収のほか、在学中に一度は役員や委員を務めることを義務付けられるなど、保護者の負担感が強かった。こうした形態は少子化や共働きが進む今の時代にそぐわないとの指摘もあり、活動内容の見直しや業務の外部委託といった動きが拡大。自主性を重んじる組織へと変わりつつある。

大阪府高槻市立赤大路小PTAでは昨年4月から、任意加入であることを明確にし、「入会届」を提出した保護者のみが会員になるようにした。規約も大幅に改定し、業務を通学路の見守りなどに縮小、保護者同士の親睦会を廃止した。

PTA内のイベントは企画した会員らが担い、希望者だけが参加する仕組みに見直し、役員や委員の選出も「児童1人につき1役」から立候補制に変更した。

会長の岩崎健一郎さん(43)は「以前のPTAは活動目的が不明確で、個人情報の取り扱いにも問題があった」。約450人だった会員数は入会届の導入で約130人に減ったが「保護者からは『PTAに対するもやもやが消えた』との意見もあり、今のところ特に活動への支障はない」と強調する。

PTA業務を企業が請け負う動きも広がっている。大手旅行会社「近畿日本ツーリスト」を傘下に持つKNT―CTホールディングス(東京)は令和4年からPTA業務の代行事業をスタート。広報紙の印刷や発送、イベントの企画運営、PTA専用ウェブサイトの開設などを請け負っている。(和田基宏、宇山友明)

存在意義忘れず、時代に即した変革を

大阪教育大の小崎恭弘教授(保育学)の話

PTAのあり方は全国的な問題となっている。共働き世帯の増加といった時代の変化に即し、変革のタイミングを迎えているのは間違いない。

岡山県PTA連合会が解散することになったのは会員数などが減少し、組織の維持が難しくなったことが背景にある。多くの保護者が効率性などの点から、所属してもメリットがないと思うようになったことも一因だろう。他の地域でも同じような事態が起こる可能性は十分にある。

小中学校のPTAでも、保護者の入会の意思を明確に確認するようになったことなどで会員数が減少傾向にある。ただ、PTAの本来の存在意義は、子供たちに、多様な人との関わりやさまざまなイベントを通じた経験を提供することにある。そのことを保護者や教職員は忘れてはいけない。地域で子供を育てるという当事者意識も大切にしてほしい。

その上で、負担が大きく、必ずしも保護者がやる必要のない業務については外部委託も進めるべきだろう。(聞き手 宇山友明)

PTA 「Parent Teacher Association」の略で、保護者と教員が子供の健全育成を図るために活動するボランティア団体。全国組織の公益社団法人「日本PTA全国協議会」を頂点にしたピラミッド構造で、学校単位の組織の上位に郡市区単位の組織、その上に都道府県単位の組織がある。全国協議会の令和5年度会員数は約716万人、前年度から約34万人減少した。

この記事の関連ニュース