中学受験の国語の論説文で出典(著者)が「長田弘(おさだひろし)」と書いてある題材は、受験までに二度三度解いておきたい文章です。
長田弘先生の文章はとにかく読みにくい。特に、接続語のあとに読点がなかったりするものですから、最初の接続語の選択問題から慌ててしまうのです。また、句点の部分も余韻を残した書き方をすることがあります。そりゃそうなります、長田弘先生と言えば詩人ですから——。
詩の調子で論説文を書かれるとちょっと困るのですが、と言いたいところですが、『言葉』について語っていることもあるから逆らえません。そもそも、入試問題によく出てくるのだから逆らえないのです。
なんと、2023年の東大国語に「詩人であること」という題材で出題がありました。その解説でも、「読みにくい文章でした。主語と述語の対応や修飾—被修飾の関係がどの部分にあるのか難解」とあります。「そ・ん・な・ひ・と」を中学受験でだすな!と思ってしまいますが、出るものだから備えるしかないのです。
三度ほど解いていると、文末のニュアンスがわかってきます。独特の書き方に慣れてくるのです。そして受験前に解いたものをチェックしておくと対策は万全だと思います。「初長田文」の受験生に差をつけることができるでしょう。私が初めて長田先生の文章を読んだとき、(なんだこれは、小学生用にひらがなに変えて出題しているのか?)と思いました。それくらいひらがなが多いので、「初長田」の人はきっと戸惑うでしょう。
ところで、日本語にはどうして漢字とひらがながあるのか? 「すもも も もも も もも のうち」という早口言葉がありますが、これは漢字を挟まないとどこまでが一語なのかわかりませんよね。さらに意味もわからない。これを漢字で書くと「李も桃も桃のうち」となり、かなり意味が分かりやすくなります。
じゃあ漢字だけでいいじゃないかと思うのですが、間違っているかどうかは別にして私はこんなことを考えました。
漢字だけ、つまり漢文をみるとわかりますが、書くのが大変そうだし、読む方も大変そう。読む際に多少予想が必要な気がします。そこで、漢字だけの言葉を例にすると、「中華料理」は、「中華圏の料理」を略して「中華料理」としているのでしょう。
「中華料理」って四字熟語ではありませんから、本来はひらがなを含んでいると思うのです。それが広く認知されて今では説明の必要がない言葉になったのかもしれません。でも、広く認知されていない言葉は説明が必要ですから、ひらがなを付け加えているのかなと。さらに、ひらがなが適度にあると、読むときの休憩場所になります。飛び石のようにひらがながある文の方が読みやすいというわけです。
それなのに、長田先生の文章は、大袈裟に言うと飛び石ほどしか漢字がない。漢字とひらがなのバランスの大切さを感じます。そう、長田先生は「ひらがなばかりじゃ読みにくいよ」と置手紙をしてくれたのかもしれません。受験生には迷惑な話ですが——。
また、児童文学といえば「バッテリー」の著者である「あさのあつこ先生」です。あさのあつこ先生の本は、小学生の読書感想文の課題にもなるそうです。ということは……、そうです。中学受験にも出題されるのです。
「バッテリー」のイメージからすると読みやすそうと思ってしまいますが、読書として読むのと国語の題材として解くのとは大きな違いがあります。とにかく暗示が難しい。この描写でこの意味は気付かなかったよと思うことが多いのです。
選択肢問題が相当難しくなります。でも安心してください。やっぱり何度かで慣れるのです。問いて納得する、これを二度三度繰り返すとコツがわかってきます。受験前はやることがたくさんありますが、このおふたりは「受験前に解いておきたい」ですね。
筆者紹介
桜井信一(さくらい・しんいち) 昭和43年生まれ。中卒の両親のもとで育ち、自らも中卒になる。進学塾では娘の下剋上は難しいと判断、一念発起して小5の勉強からやり直し、娘のために「親塾」を決意。最難関中学を二人三脚で目指した結果、自身も劇的に算数や国語ができるようになる。現在は中学受験ブログ「父娘の記念受験」を主宰、有料オンライン講義「下剋上受験塾」を配信中。著書に、テレビドラマ化されたベストセラー『下剋上受験』をはじめ、『桜井さん、うちの子受かりますか』、馬淵教室と共著の『下剋上算数』『下剋上算数難関編』などがある。