文部科学省が昨年12月に全国の大学宛に出した一通の文書が関西の教育関係者の間で波紋を呼んでいる。年内に学力検査を伴う大学入試を行った東京都内の大学を視野に試験期日を定めた実施要項を順守するよう求める内容だが、関西の私大では過去数十年間「公募推薦」という形で年内入試を行っており、「いまさらか」と困惑する。大学全入時代と少子化を背景に、学生確保競争も激化するなか、文科省の〝待った〟に大学側がどう対応するか注目が集まる。
大学入試は大学や高校の関係者で作る実施要項で、「一般選抜」「総合型選抜」「学校推薦型選抜」に大別。学力試験を課さない総合型と学校推薦型は、年内に実施する「年内入試」が推奨されている。学力試験の期日は「2月1日から3月25日までの間」と明記。要項の逸脱に罰則などはないが、文科省は順守を求めている。
一方で昨年春以降、東洋大と大東文化大が、学校推薦型選抜に学力試験を含めて実施する方針を明らかにした。文科省は10月に個別に指導したが、両大とも11~12月にかけて試験を実施。このため、文科省が同月24日、文書を公表した。
これに驚いたのが近畿大や京都産業大、龍谷大などこれまで同様の入試を行ってきた近畿の私学関係者だ。
このうち、近畿大では昭和43年度以降、「推薦入試(一般公募)」の名称で学力試験を伴う学校推薦型選抜を行っており、今年度も昨年11月16、17、30日と12月1日に試験を実施、計5万3773人が受験した。
同大広報室によると推薦入試の場合でも学力試験を課すのは「大学が求める基礎学力に達しているか確認するため」と説明。文科省からの通達について、同大の担当者は「よりよい入試制度にするため、しっかり検討していく」と述べるにとどめた。
30年以上同様の入試を続けている別の私大関係者は「いまさらルール違反といわれても困る」と話す。大学に生徒を送り込むある大阪府立高の進路指導担当者も「関西ではもう定着している」と困惑を見せる。
関西の教育関係者にとっては寝耳に水ともいえる今回の指導だが、文科省入試室の担当者は「特にルールを改めたわけではない」と話す。
今回、東洋大と大東文化大の新入試実施を聞きつけた関東の教育関係者からの問い合わせで、問題が発覚。その中で関西の私大でも同様の入試方法が確立していたことが判明したという。同室は「こちらもすべての大学の入試日程を把握しているわけではない」と弁明。来年度の入試日程については協議会で議論すると説明した。担当者は「罰則がないとしても、教育機関なら順守してほしい。守られないのであれば何らかの対応も必要となってくる」と指摘した。