大学入試を巡り、学力試験を伴う学校推薦型選抜を年内に実施した大学への文部科学省による指導が16日、判明した。大学全入時代と少子化の影響で、学生確保に向けて激しさを増す大学間の競争。首都圏の比較的規模の大きい私大での学力試験年内実施は、他大学が追随を余儀なくされる可能性があり、入試実施ルールの形骸化が懸念される。高校側からは生徒の十分な学習時間を確保できなくなることへの不満の声が上がるなど、受験業界に波紋を呼ぶ。
〝逸脱〟30年以上
「関西で行われていた流れが首都圏にまできた。ルールを拡大解釈できる点があり、大義名分も立つのだろう」
日本私立大学連盟の担当者は東洋大と大東文化大の判断をこうおもんばかった。関係者によると、関西で推薦入試として年内に学力試験を実施しているのは、近畿大、龍谷大、甲南大など。関西の一部の私大では30年以上、実施要項を逸脱した入試が続いてきたとみられるという。
大学入試は、大学入学共通テストや大学個別の学力試験などによる「一般選抜」、高校の推薦書と面接などによる「学校推薦型選抜」、面接などによる「総合型選抜」に大別できる。大学入試の多様化の推進から、学力試験を課さない学校推薦型と総合型は、年内に実施する「年内入試」が推奨されている。
簡易な推薦書
文科省の指導を受けた両大はともに、一般選抜で行う学力試験とは内容が異なり、基礎学力を図るための試験だと主張する。一方で、生徒の高校での成績や活動状況を詳細に記した推薦書などを提出した上で、面接が課されることが一般的な学校推薦型にもかかわらず、両大が提出を求めた推薦書は、「下記生徒(者)を志願者として推薦する」という一文に高校長の署名と校印を押すだけの簡易なものだった。
近年、年内入試による入学者数は私立大で58・7%(令和5年度)に及ぶなど、受験の前倒し傾向が際立っており、「一般入試で入る学生との差があり、基礎学力の試験実施で年内入試の質の確保が必要」(東洋大)との思いもある。
進路指導が混乱
10月に行われた大学入学者選抜協議会では、日本私立中学高校連合会の代表者が「高校の進路指導を大変混乱させている」とした上で、「生徒減少期に向かって他の大学も同じような対応をしなければならなくなる」と懸念を表明。全国高校長協会の代表者も「大学側が高いレベルの学力を求めるなら、高校側に教育する時間をしっかり与えてもらいたい」とルール順守の徹底を求めた。
受験生の立場としては、本来の学校推薦型で必須な面接や小論文を受けずに、早期に合否を確認できるメリットは大きい。大手予備校の担当者は「受験生にとっては滑り止めが確保できて安心材料だ」と分析。ただ、「『赤信号みんなで渡れば怖くない』といった感で今まではすんでいたが、首都圏の規模が大きな大学がやり始めると雪崩をうつように全体の日程が崩れかねない」と危惧した。(楠城泰介)