還暦を迎えたベテラン新聞編集者が遅ればせながらパパになり、子育てに奮闘中。4歳になったばかりの息子との日々で思うこと、感じたことを綴ります。
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息子が4歳になった。好き嫌いをはっきり主張し、笑ったり、泣いたり、怒ったりの感情表現が日増しに豊かになってゆく。
夜、添い寝で絵本を読み聞かせ、それが終わると、「パパ、お仕事に行かないで」と腕にしがみつき甘えることを覚えた。寝かしつけたあと私がパソコンをたたくのを先読みされている。そのくせスースーとすぐ寝息をたてるし、眠りながら蹴ってくる脚の力も強くなった。どんな夢を見ているのだか…。
還暦パパと49歳のママは、まだまだ働き続けなければならない。「たいへんですね」「大丈夫ですか」とお声がけいただく一方で、「実はうちも50代で授かりました。お互いがんばりましょう」とのメールに日々励まされる。
密度の濃い、かけがえのない時間
かかる費用の重さから、子育てを「負債」と揶揄(やゆ)するのを耳にしたことがある。「大学進学まで子育てには総額3千万円以上かかる」といった試算もあるようだ。だから政府や自治体の少子化対策や子育て施策は経済的負担の軽減に重きが置かれている。
でも果たして「負債」なのか?
確かに、子供ができてからの家計は厳しく、手当は100円でも、あればありがたいというのが本音ではある。だが、本当に少子化を食い止めたいのなら、もっと子育てで親が受け取る「心の資産」と、そのかけがえのなさが発信されてもいいように思う。
この3年間、先々のお金に不安を感じることはあったが、「いい年して、子供を持つべきではなかった」とのマイナス思考には一度もならなかった。なぜなら、息子といると日々が2倍も3倍も充実し、時間が足りないと感じるほど、密度が濃いからである。
ココアをおかわり、ヒーローものに夢中
先日、息子が初めてココアを飲んだ。恐る恐る口に含み、甘くほんのり香ばしい苦さにパッと明るい表情を浮かべた。すぐに「おかわり!」とねだって、またゴクゴクのどを鳴らした。
すっかり忘れた新鮮な驚きを、親も「追体験」し、共に喜び感動する。そんな息子につられて久しぶりに飲んだココアは、格別な味がした。
そうかと思えば、あんなに夢中だったテレビアニメの「それいけ!アンパンマン」を卒業し、いつの間にか「仮面ライダーガッチャード」に目を奪われている。怪獣を見て、「こわいこわい」と泣きべそをかき、ヒーローの出現に身を乗り出して、「ガッチャ!」と応援している。
パパが見ていた昭和と違って令和のヒーローものは善悪の紋切り型を排したのか、敵味方が判然としない。〝闇堕(やみお)ち〟といって、道を踏み外し悪の側につく元ヒーローもいる。息子がどこまで理解しているかはともかく、絵本やアニメには時代の変化が見て取れる。これが私には学びになる。
家族関係から友達付き合いへ…広がる世界
夏至のころ、午後7時すぎの延長保育のお迎えで、園の奥から「パパーっ」と駆けだしてきた。上履きをそろえて棚に片づけるところを「どや顔」で見せつける姿はもはや少年のようだ。帰り道、手をつないで赤くなった西の空に向かって歩いていると急に顔を曇らせる。「朝がいい。朝がいいの!」と、外遊びができなくなる寂しさをあからさまにした。すっかり忘れていた素直な気持ちに接すると、こちらもまた純粋な感情がわいてきた。
七夕の短冊には、保育園でなかよしの子と「いっぱいあそべますように」という本人の願いをママが代筆した。親子関係から友達付き合いへ、どんどん息子の社会が広がっていく。
息子との追体験が加わったわが人生。負債どころか毎日利息がついて、複利でどんどん楽しくなった。
ときに「負債」と揶揄される子育ては「心の資産」を積み立てる。決して豊かさとトレードオフ(両立できない関係性)ではないはずだ。
中本裕己
なかもと・ひろみ 昭和38年生まれ。前「夕刊フジ」編集長。現在も同紙で生活者の視点に立って編集者として勤務する。著書に『56歳で初めて父に、45歳で初めて母になりました』。
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