不登校の児童生徒数が昨年度、全国の小中学校で34万人を超え、過去最多を更新した。その中には高校や大学などへの進学希望者もいるが、受験勉強や情報収集といったキャリアパスをどう描けばいいのか悩む人は少なくない。経験者や専門家に取材すると、個々人の状況を踏まえた細やかな支援の大切さが見えてきた。
ネット依存で昼夜逆転、成績急降下
東京都内にある進学塾で相談員として働く泉友(ゆう)さん(27)も、不登校になった後、進学を志した一人だ。
中学1年の夏休み明けのこと。泉さんはアトピー性皮膚炎を同級生にからかわれ、暴力を伴ういじめに遭った。以来週の半分は登校せず、インターネットに依存し昼夜逆転する生活を送った。入学直後は約90人いる学年で一桁台を維持していた成績は「40位くらいまで落ちた」という。
その後、担任の勧めもあり、福祉や芸術などを幅広く学べる全日制の公立総合高校に進学。学級委員や生徒会のメンバーになった。だがその活動も重荷に感じるようになり、2年生になると登校日数は減っていった。オンラインゲームに没頭する日々。2年の冬、学校側から留年するか、通信高校に編入するかの選択を迫られた。
「どのみち後れを取るなら中退して高卒認定を取り、大学に行く」。英会話教師だった母の影響で英語を学び直したいという希望もあった。
不登校生向け塾へ
中退し、不登校生向けの進学塾「キズキ共育塾」(東京)に通い始めた。
「勉強をする習慣もなく、大学入試の仕組みさえ知らなかった」。中学の復習からやり直し、少しずつ学習習慣を身につけた。土日を休日とし1日6時間、週5日机に向かった。「最初は授業と宿題で精いっぱい。モデルとなる前例も少ないのが一番の不安だった」と振り返る。
支えとなったのは塾の職員たちだ。泉さんをいつも気にかけ、やりたいことを尊重してくれた。1年後、得意科目の英語を生かし東洋大国際地域学部への現役進学を果たした。「やっと、レールに戻れると思った」
入学後に双極性感情障害と診断され、卒業までに8年かかったが、この春、無事に卒業。正社員として自らをサポートしてくれた塾に就職した。
4割が「進学準備」
昨年度の不登校の小中学生は34万6482人に上り、11年連続で過去最多を更新した。高校生も6万8770人と3年連続で増えたが、泉さんのように進学を希望する不登校生も少なくない。進学塾「じゅけラボ予備校」による昨年11月の調査によると、不登校生を抱える家庭の44・3%が「積極的に進学準備」をしている。
キズキ共育塾で相談員を務める半村(はんむら)進さん(42)は、不登校生の進学に向けては「サポートする側が考えることを節約しないこと」が重要だと指摘する。不登校になる要因は人によって違う。半村さんは「支援者が自らの成功体験を基に独断的な言葉をかけたり、子供を特定の枠に分類したりすることなく、個々の生徒と深く話し合いながら最適な方法を考えて進路を提案することが大切だ」と話す。(堀川玲)
不登校生の学びの場として、近年は通信制高校やフリースクールなどさまざまな選択が可能となっている。自分のペースで学歴を得たり、人と出会えるなどメリットは大きい。
一方、進学準備は家庭にとって大きな負担となっているのも実情だ。多様な場に親が足を運んでマッチングを見る必要があり、費用も高額になるからだ。地方では都市部に比べ選択肢が少なく、不登校への非難がきついこともある。
不登校生に対し、周囲に求められるのは、学校に行かない状態を否定せず受け止めること。そして、興味関心を広げるための情報や出会いの場の提供といった、広い意味でのキャリア支援だ。
「数週間で登校させる」などとうたう、根拠に乏しい〝不登校ビジネス〟もある。悩んだ末に追い詰められた保護者や親が、からめとられるリスクがある。
進学や就職はあくまで手段であり、ゴールではない。「10年後に子供が自分らしい人生を歩んでいることが重要」だと、念頭に置いておく必要がある。(談)