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中学受験の国語は「読書」ではない 問いの途中で気づかなければならないこと  桜井信一の攻める中学受験

産経ニュース 2024年10月19日 11時0分

四谷大塚の予習シリーズ(演習問題集)の国語テキストにこんな物語文が出題されていました。なんと、人間の言葉を話せるクマが、主人公のアパートに引っ越してきたのです。

人間からするとクマは怖いというイメージですが、このクマはたいそう気遣いができるのです。引っ越ししてすぐに近所の人に「引っ越しそば」をふるまうなど、とにかく気配りができるやさしいクマなのです。

ある日、主人公はこのクマに誘われて弁当を持って川原へ散歩に出かけます。とことこと歩いていると、すれ違う車は少し驚くのか、珍しいと思うのか、車のスピードを落として大きくよけていくのです。

川原につくと、無邪気なこどもが近寄ってきて、クマの毛を引っ張ったり、蹴とばしたりした挙句、お腹にパンチして逃げていくのです。クマは怒りません。「やれやれ、困ったものですね」と言う態度なのです。

川原では釣りを楽しんでいる人たちがいました。その近くで、クマはざぶざぶと川に入って行き、片手で大きな魚をつかまえます。そして主人公に「今日の記念に差し上げます」と言ったあと、持ってきたナイフとまな板を取り出してつかまえたばかりの魚を開きます。さらに粗塩をふりかけ広げた葉の上に置いて言います。

「帰る頃にはちょうどいい干物になっています」と。まあとにかく何から何まで行き届いたクマなのです。こうして楽しい散歩が終わり、家に着くと、クマはもじもじしながら「わたしの故郷の習慣だから抱擁をしてほしい、いえっ、お嫌なら結構なのですが……」と主人公にお願いをしました。

どうでしょう。面白そうな話と思いませんか。この部分だけでタイトルをつけるとすると、「やさしいクマとのお散歩」あたりがちょうどいいでしょう。そして、いよいよ問いが始まります。この問題は問いが12問ありました。

「クマを見かけた車がスピードを落としてよけたのはなぜ?」「こどもにお腹をパンチされたときのクマの気持ちは?」「クマがもじもじして抱擁をお願いしたのはなぜ?」などなど。

その選択肢問題はどれも迷うものばかり。というのも、クマの胸中がほとんど書かれていないのです。結局2つに絞ってあとは「えいっ!」と選ぶことになります。そしてなぜか外れるようになっている。

—ここが、国語の出来ない子のわかっていないところなのです。

中学受験の国語は、意味のない出題をしません。長い物語の中からある一部分を切り取って出題するとき、『受験生に伝えたいテーマ』があるのです。メッセージと言ってもいいでしょう。このにおいを嗅がずにただ「やさしいクマとのお散歩」として読んでしまうと、そりゃクマの行動の意味も、他者の行動の意味もわからないでしょう。

私は国語読解記述講座や国語のテキスト講義の中で、「物語文はある一部分を切り取っているんです。そこにメッセージがあります。問いの途中で気付いてください」とよく言います。それでも普通に読んでしまう子が多いのです。本当は毎回しつこく言いたいくらいなのですが、あまりくどいのもどうかと思い、特に『テーマ(メッセージ)』に着目しなければいけないときは、講義の中で念を押します。

実はこの「やさしいクマとのお散歩」は、『異なる文化や習慣を持つ者たちが、互いを尊重し合いながら交流することの大切さ』を伝えるための出題だったのです。つまり、中学受験で頻出の『異文化コミュニケーション』でした。よくあるパターンなのに「クマさん」として読んでしまう。中学受験の国語は読書じゃないんだよと多くの小学生に伝えたい。そう思います。

筆者紹介

桜井信一(さくらい・しんいち) 昭和43年生まれ。中卒の両親のもとで育ち、自らも中卒になる。進学塾では娘の下剋上は難しいと判断、一念発起して小5の勉強からやり直し、娘のために「親塾」を決意。最難関中学を二人三脚で目指した結果、自身も劇的に算数や国語ができるようになる。現在は中学受験ブログ「父娘の記念受験」を主宰、有料オンライン講義「下剋上受験塾」を配信中。著書に、テレビドラマ化されたベストセラー『下剋上受験』をはじめ、『桜井さん、うちの子受かりますか』、馬淵教室と共著の『下剋上算数』『下剋上算数難関編』などがある。

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