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国際情勢だけでなく今やアニメの基礎知識「聖書」を学ぼう 古代オリエント博物館

産経ニュース 2024年8月30日 20時33分

世界最古の古代オリエント文明は紀元前3200年頃~同300年頃、エジプトやメソポタミア(現在のイラク)、ペルシャ(イラン)などオリエント地域に興った。想像を超えるはるか昔のことだが、「全ての文明の祖」には現代に起こる問題の根があり、国際社会のベースとして知っておきたい知識。また、読み解けば古代の人も同じ人間であることに気付かされる。専門博物館である古代オリエント博物館(東京都豊島区)へ足を運んだ。

若者や家族連れなどの活気にあふれる池袋のサンシャインシティ。その文化会館ビル7階に同館は位置する。足を踏み入れるとりんとした空気で、古代のロマンへの期待に胸が高鳴る。

常設展のほか、年に2回特別展を開催。現在は「聖書の世界~伝承と考古学~」と「古代オリエントをたのしむ! 子どもミュージアム」を行っている。

「古代オリエントの今に生きる最大の遺産が聖書。古代オリエントの歴史、思想、文学である」と、「聖書の世界」を担当した同館研究部長、津本英利さん。

旧約、新約聖書の伝承の流れ、各時代で用いられた土器や道具、ランプの変遷、聖書に関連する人物が刻まれた当時の硬貨などを貴重な資料から紹介。最新の技術や研究が解き明かしたことがらを学ぶことができる。日本への聖書伝来についてや、津本さんも参加する発掘調査の様子なども展示されている。

貴重な円筒碑文も

展示の目玉は20世紀最大の考古学的発見といわれた「死海文書」の実物大複製。紀元前2世紀以降に書かれた現存最古の旧約聖書写本聖書の巻物で、何千年と内容が変わっていないことを示す重要な資料だ。また、「ネブカドネツァル2世円筒碑文」(平山郁夫シルクロード美術館所蔵)は、「日本にあるのが不思議なくらい貴重な資料」(津本さん)。紀元前6世紀初頭の新バビロニア王の碑文だ。

手のひらサイズの聖書「ポケット・バイブル」も展示されており、数ミリほどの小さな手書き文字が並ぶ。本文の脇には聖人のエピソードが追記されていたり、文字の訂正があったりと、当時の人の息遣いさえ感じられる。

欧米では「常識」

昭和53年のサンシャインシティ開業とともに日本初の古代オリエント地域専門の博物館として開館した。昭和天皇の弟で古代オリエントに造詣の深い三笠宮さまをはじめ、作家の井上靖さん、松本清張さん、画家の平山さんらも構想に関わった。当時は商業ビルに博物館があることは珍しく、先駆的であったという。

古代オリエントは「世界史の中心であり起点」と津本さんは強調する。四大文明のうち3つを含むほか、ギリシャ、ローマ、中国、日本など世界の諸文明へ多大な影響を与えた。「欧米では常識。真の国際人となるには、文化や宗教の背景であり、核である古代オリエントも知ってほしい」と話す。

紛争の絶えないパレスチナ問題なども関わりが深く、「むしろ時代の要求は高まっている」にもかかわらず、なかなか学校教育では扱われないため、社会教育機関として役に立ちたいという。

また、「聖書に触れると人間が見えてくる。道具が変わってきているだけで同じ人間だ」とも話す。人間の思考や感情、人間関係は何千年たっても基本的に変わらない。SF映画やアニメ作品などに、古代オリエントにまつわる用語やできごとが伏線になっていることも多く、「知っているとより楽しめる」メリットも。

「聖書を宗教的に特殊なものではなく、一種の歴史の証人として接してほしい」と呼びかける津本さん。「物事はつながっていて、独立、孤立した世界はあり得ないと知るきっかけになれば。その窓口の一つとして、専門性を保ちつつもわかりやすい展示を心掛けたい」

特別展は9月8日まで。午前10時~午後5時、大人1千円、小中学生300円など。(鈴木美帆)

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