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世界の頂点へ高まる期待 大和ハウス杯囲碁十段戦 井山裕太十段就位式「自分自身高める」

産経ニュース 2024年7月1日 7時0分

2~4月に打たれた囲碁タイトル戦「大和ハウス杯 第62期十段戦五番勝負」(産経新聞社主催)を制し、6期ぶり6度目の十段を獲得した井山裕太十段(35)=王座・碁聖=の就位式が6月13日、東京都港区の明治記念館で行われた。出席した関係者らは井山十段の3冠復帰を祝うとともに、国際棋戦でのタイトル獲得を期待する声が上がった。

式典では、日本棋院と関西棋院から十段就位を認める允許状が授与されたあと、産経新聞社の近藤哲司社長から賞金目録と賞杯が渡された。

近藤社長はあいさつの冒頭、「6期ぶりの十段獲得おめでとうございます」と久しぶりの十段奪還を祝福。今シリーズの対局を「世代を超えて2冠同士が激突し、井山さんがカド番で迎えた第4局で屈指の名局が生まれた。最終第5局でも最強・最善を追求した井山さんが3冠に復帰された」と振り返った。また、今月下旬から準々決勝が行われる国際棋戦の爛柯杯に井山十段が日本勢として唯一勝ち残っていることに触れ、「世界の舞台でも大いに力を発揮していただきたい」と激励した。

日本棋院の小林覚理事長は、井山十段の戦いぶりについて「盤上に無駄な石がない。寝てると思っていた石たちがまた活躍しだす。それだけたくさんのことを考えて打っている」と解説。井山十段が5月に35歳の節目を迎えたことを挙げ、「これから体力などいろんなものと勝負していかなければいけない時が来た。日本棋院は百周年を迎えたが、最強で最高の棋士が井山裕太だと思う。井山さんが世界チャンピオンにならなくて誰がなるのかと、囲碁ファンはみんな思っている」と世界の頂点に立つことを期待した。

華道家元池坊総務所の事務総長を務める関西棋院の池坊雅史理事長は「華道も囲碁も長い歴史を持つ伝統文化。囲碁は打つ人の人間観や美的意識が表れる。井山さんの人間性、柔らかく謙虚な人格は本当に素晴らしい」と話した。

謝辞に立った井山十段は「久しぶりに十段戦五番勝負の舞台で戦えることが本当にうれしかった。芝野さんの実力や成長を感じる非常に厳しい五番勝負だったが、最後は運が味方してくれた」と述懐。「私も30代半ばを迎えて年齢のことを言われるようになったが、下の世代とも戦っていけると結果で示せた。自分自身を高め、世界戦でもいい戦いができるようにやっていきたい」と国際棋戦での勝負を見据えた。

五番勝負を振り返る

【第1局(2月27日)大阪府東大阪市の大阪商業大学】

14年連続での開催。白番の芝野虎丸十段が下辺で競り合いを仕掛けた。中盤以降は黒番の井山裕太王座が右辺で地合を増やし、中央と上辺が絡んだ生きるか死ぬかの勝負となったが、よりよいシノギを目指した手が失着に。芝野十段がダメ詰まりをとがめ、上辺に的確に手をつけて地合で大差をつけて先勝した。

【第2局(3月25日)東京都千代田区の日本棋院東京本院】

黒番の芝野十段が序盤から右上と右下で厚みを築いたのに対し、白番の井山王座は隅の実利を稼ぐ。井山王座は左辺でハイリスク・ハイリターンなコウ争いを仕掛け、下辺の黒石をのみ込んで優勢に。芝野十段は右下から中央に伸びる白の大石に寄りついての挽回を図るが、井山王座が危なげなくしのぎ、対戦成績を1勝1敗のタイに戻した。

【第3局(4月4日)長野県大町市のANAホリデイ・インリゾート信濃大町くろよん】

同地では30回目の開催。序盤は左下隅で競り合いに。黒番の井山王座は下辺に連打したが、左辺でうまく形を決めた白番の芝野十段が下辺に回って治まり、地合でリード。中央の黒石を抜いて厚みを築き、右辺の大場を先手で打って下辺を生きた。井山王座もヨセ勝負に持ち込んだが、正確に打ち進めた芝野十段が対戦成績2勝1敗として十段位初防衛に王手をかけた。

【第4局(4月15日)大阪市北区の日本棋院関西総本部】

井山王座のカド番で迎えた第4局。序盤は黒番の芝野十段が地合で先行して左上に攻撃を仕掛けたが、白番の井山王座も中央に突破を図って反撃すると、芝野十段が長考に沈んだまま昼食休憩に入った。

再開後は左上隅で互角の形勢。芝野十段は中央の白三子を狙って仕掛けたところで本局唯一の失着が飛び出し、白石がつながり井山王座が得をする形に。最強・最善を追求する井山王座は緩まずに白1(実戦の白116手目)の逃げ出しから右辺の黒地に手を付け、白5(実戦の白120手目)が黒の薄みを突く妙手。右下隅を奪い返し、勝勢になった。芝野十段も中央をまとめきったが、右下で失った地が大きく差を縮められなかった。

【第5局(4月30日)日本棋院東京本院】

再びニギリが行われ、井山王座が白番に。白は左辺、黒は下辺と囲いあった後、井山王座が下辺に着手すると、芝野十段も正面から受けて立つ決戦模様。井山王座は完璧なさばきを見せて下辺の黒地を削り、左上の大ヨセに回り優勢になった。芝野十段はコウ争いの勝負手を仕掛けるが、井山王座が緩まず押し切り、対戦成績3勝2敗で6期ぶりの十段奪還を果たした。

大和ハウスから副賞贈呈

特別協賛の大和ハウス工業からは、北海道から沖縄まで全国に76カ所あるダイワロイネットホテルズで使える宿泊券が副賞として贈呈された。

今回の就位式には井山裕太十段の妻や長男、母親も同席して晴れ姿を見守っており、同社の泉本圭介執行役員は「スイートルームの上質な空間で、ご家族の大切な時間をお過ごしください」とあいさつした。

井山十段が昨年7月以来となる3冠復帰を果たしたことについては、「井山十段の信条である『負けを糧にする』を実行された」と泉本氏。「どんな苦しいときも十分な鍛錬を欠かさない姿勢が、リスクを乗り越えて奥深くまで踏み込めた結果だと思います」とたたえた。

いやま・ゆうた 平成元年生まれ、大阪府出身。14年にプロ入りし、21年に20歳4カ月で史上最年少名人(当時)に。28年には囲碁界で史上初となる七大タイトルを独占。29年にも2度目の七冠を達成し、30年に国民栄誉賞を受賞した。二十六世本因坊で、名誉棋聖・名誉天元・名誉碁聖の資格を持つ。昨年防衛した王座・碁聖とあわせ、6期ぶりの十段奪還で七大タイトル3冠に復帰した。タイトル獲得数は歴代2位となる通算75期、七大タイトルは歴代1位の通算60期。

(村嶋和樹)

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