皇室に代々受け継がれてきた美術品を展示する皇居・東御苑の「皇居三の丸尚蔵館」(東京都千代田区)で、鶴や鳳凰(ほうおう)などの「吉祥」をモチーフにした作品の展覧会「瑞祥(ずいしょう)のかたち」が開催されている。皇室の慶事に献上された品をはじめ、〝縁起物〟の絵画や置物が一堂に会している。3月2日まで。
めでたいことの兆しとされる吉祥の造形は古代中国から日本に伝わり、平安時代の「古今和歌集」にも登場。不老不死の仙人が住むと考えられた蓬莱(ほうらい)山、長寿を象徴する鶴や亀、優れた天子が世に現れる兆しとされる鳳凰(ほうおう)などが知られる。
今回の展覧会では、江戸時代以降の作品を展示。国宝に指定されている伊藤若冲(じゃくちゅう)の「動植綵(さい)絵 老松白鳳図」や、富士山を描いた横山大観の大作「日出処日本」をはじめ、空想上の霊獣である麒麟や、唐獅子の置物などが並ぶ。なかには、皇居の吹上御苑に生えていたキノコを乾燥させて作ったという珍しい置物もある。
造形は時代で変化
同館管理・情報課の五味聖課長によると、皇室の慶事を国内で広く祝うようになったのは明治期から。海外王室の風習に倣ったといい、明治27(1894)年の明治天皇と昭憲皇太后の結婚25年の式典の際、美術品を皇室へ献上するようになった。皇室ゆかりの品を集めた同館には、吉祥モチーフの作品が多く所蔵されている。
展覧会では、時代の移り変わりによる造形の変遷も見ることができる。空想上の生き物である唐獅子は近代以降、実在する動物のライオンに近い造形へと変化。一方、太平の世の象徴として用いられてきた麒麟には、西洋の美術表現が取り入れられ、翼が生えたものも見られるようになった。
五味課長は「伝統的な吉祥のモチーフが、どのように変わってきているかを見られるのも見どころの一つ」と話す。
展示面積8倍に
宮内庁の「三の丸尚蔵館」を前身とする同館は、収蔵や展示スペースを拡張するために令和元年から建て替え工事を実施。5年10月、国立文化財機構に管理運営が移管され、11月に部分開館した。改修工事は継続しており、今年5月からは一時休館して8年秋の全面開館を目指す。
全面開館では、収蔵庫が旧施設の約4倍、展示面積が約8倍にまで拡大。イベントスペースやミュージアムショップも併設される。同館総務課の柏木蔵人課長補佐は「若い人たちにも皇室の伝統文化や、皇室が保持してきた美術工芸品にも関心を持ってもらいたい」としており、子供向けの鑑賞会などで若年層を含めた幅広い層に親しんでもらえる施設にしていくという。
入館は予約優先で、申し込みサイトから日時指定チケットを購入する。一般1000円など。月曜と年末年始、2月23日の天皇誕生日など休館(月曜が祝日または休日の場合は開館し、翌平日休館)。開館時間は午前9時半~午後5時(入館は午後4時半まで)。金・土曜は午後8時まで開館。(吉沢智美)