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上皇后さまの未発表の歌集「ゆふすげ」が出版 素顔浮かぶ466首

産経ニュース 2025年1月15日 13時26分

昨年、90歳の卒寿を迎えられた上皇后さまの未発表の短歌466首を収録した歌集「ゆふすげ」が15日、岩波書店から刊行された。優れた歌人として評価される上皇后さまの歌集は過去にも出されているが、昭和43年~平成30年の私的な作歌をまとめた。繊細かつ豊かな感性でつづられた三十一文字に、一人の女性としての上皇后さまの「素顔」が浮かび上がる。

ユウスゲが呼び起こす記憶

皇室の和歌の相談役を務める永田和宏さん(77)が未発表のお歌の存在を知り、「歌集としてまとめるべき」と提案、宮内庁の協力を得て出版につながった。上皇后さまのお歌はこれまで、上皇さまと共著の「ともしび」(昭和61年)や単著の「瀬音」(平成9年)にまとめられてきたが、「皇太子同妃両殿下」「皇后陛下」の表記のみで著者名は記されていなかった。新歌集は、「バイアスをかけずに読者の目に届いてほしい」という永田さんの願いもあり、「美智子」のお名前で出版される。

《ひとところ狭霧(さぎり)流るる静けさに夕すげは梅雨(つゆ)の季(とき)を咲きつぐ》(昭和50年)

タイトルの「ゆふすげ」は、「夕すげ」や「黄すげ」としてお歌にしばしば登場するモチーフだ。りんとして、どこかはかないレモンイエローの花は、ご夫妻の思い出の地、軽井沢の夏の風物詩として知られ、お住まいの庭も彩ってきた。

《母の亡く父病むゆふべ共にありし日のごと黄すげの花は咲き満つ》(平成9年)

亡き母親と、病に伏した父親を思い詠まれたお歌には、かつての両親との記憶を呼び起こす花として登場する。歌集の本体表紙と帯には、親交の深かった画家の故・安野光雅さんが描いたユウスゲがあしらわれた。

ご家族への愛情、社会の不条理にも視線

これまでの歌集と比べて、よりプライベートな領域でのご家族の情景も詠み込まれている。

《幾度(いくたび)も御手(おんて)に触るれば頷きてこの夜は御所に御寝(ぎょしん)し給ふ》(平成15年)

前立腺がんの手術で入院し、一時退院された上皇さまを静かに見守られるようなこの歌をはじめ、寄り添い、支え合われるご夫妻の日常が浮かぶ作品も多い。

《汝(なれ)を子と持ちたる幸(さち)を胸深く今日君が手にゆだねむとする》(平成17年)

「清子内親王の結婚を祝ふ」と添えられたお歌には、娘を送り出す一人の母親としての深い感慨がにじむ。

永田さんは歌集で、ユウスゲの細やかな描写に象徴される「自然詠」(風景を詠んだ歌)の美しさや、表現の率直さに加えて、上皇后さまが社会に向けられてきた視線にも注目する。

《被災地に手向(たむ)くと摘みしかの日より水仙の香は悲しみを呼ぶ》(平成9年)

平成7年、阪神大震災で被災した神戸市長田区の菅原市場を上皇さまとともに訪れ、皇居で摘んだ水仙を供えられた上皇后さま。その2年後に詠まれたお歌からは、「震災を『決して忘れてはならない』という強いメッセージが伝わってくる」(永田さん)。世界の紛争や戦争、北朝鮮による拉致被害者を詠んだお歌も収録されている。

永田さんは「歌はその人の生きてきた時間とともにあり、時に写真よりも鮮明に情景を浮かび上がらせる。歌集を通じて『歌人美智子』としての上皇后さまの人生をより身近に、深く感じてもらえたら」と話している。(緒方優子)

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