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動き出す二酸化炭素回収貯留 秋田沖は200万トンを海底圧入 再利用で産業振興も 深層リポート

産経ニュース 2024年11月16日 8時0分

地球温暖化を抑制する切り札となる二酸化炭素(CO2)回収貯留が日本でも動き始めた。製鉄や火力発電、セメント製造などで排出されるCO2を回収し、秋田沖など国内外9海域の地層深く圧入する。実証試験や事業化設計が進み、令和12年度に操業を始める。秋田では県内外で回収した年間200万トン近くを貯留する一方、CO2再利用による産業振興も期待できる。

20キロ沖合の砂岩層に

「秋田、由利本荘市などの約20キロ沖合、水深100~400メートルの海底地層のさらに800メートルより深い砂岩層にCO2を圧入する」

秋田沖の共同事業体に参画している伊藤忠商事のCCS事業推進ユニット長、重松秀樹さんは10月末、秋田県主催のセミナーでこう説明した。

石油や天然ガスの貯留層にもなる砂岩は粒子と粒子の間に隙間があるため、そこにCO2を圧入するとし、「砂岩層の上は遮蔽性の高い帽岩(泥岩など)層が覆うので安定して貯留できる」と強調した。鉄鋼、セメント産業などを対象に広域的に事業を展開していくことになり、共同事業体には排出事業者側の日本製鉄、太平洋セメントや、設備設計を担う大成建設などが名を連ねる。

CCSと略されるCO2回収貯留は、石炭・石油・ガス燃焼やセメント焼成などで発生するCO2を分離回収して天然ガス同様に低温で液化。専用タンカーで貯留基地に運び、そこから海底パイプラインなどで沖合の地層の井戸を経由して圧入する。

経済産業省などによると、国内のCO2排出量は令和4年度で10億3700万トンに上る。CO2の分離回収の技術は複数方式が実用化しており、政府は32年には1・2億~2・4億トンを回収貯留する方針を掲げる。

日本では海底下を含め2400億トン分を貯留できる可能性があり、調査済み海域だけで政府方針の100年分に相当する160億トンを貯留できると判明した。回収貯留を12年度に本格稼働させるという政府方針を受け、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が今年6月に事業設計を行う地域として、秋田沖の日本海側東北地方、首都圏、マレー半島沖など国内外の9件を選定した。

秋田沖の事業では、日本製鉄九州製鉄所大分地区と太平洋セメントのデイ・シイ川崎工場でそれぞれ回収した年間計約150万トンのCO2を秋田港(秋田市)か船川港(男鹿市)に建設する貯留基地に輸送。地元で排出されるCO2数十万トンも運び込まれ、年間貯留量は200万トン近くに達する見込みだ。

「CO2貯留は世界で41件が事業化、351件が開発段階にあるが、圧入した地層から漏れ出した事例はない」と重松さんは強調する。貯留の安全性は同機構もホームページで詳しく解説している。

合成燃料など生産も

CO2貯留基地整備は地元にもメリットがある。そのひとつが清掃工場のごみ焼却に伴うCO2の回収で、環境省の試算では全国の焼却施設が排出するCO2は令和元年で計約4300万トンに上る。

厄介者に見えるCO2も産業用などでは有益な存在となる。ドライアイス製造や溶接部保護に欠かせないだけでなく、医療用の炭酸ガスや食品として炭酸水製造にも利用されている。秋田でも期待される水素製造が拡大すれば、CO2と合成して都市ガス同様のe―メタンや、ガソリン・軽油や灯油、ジェット燃料などとして使えるe―フユーエル、化学品原料のe―メタノールを生産できる。

重松さんは「CCSが社会に広く受け入れられる上で地元の利益となることが重要。事業は地元と密に連携して進めたい」と話している。

CO2回収貯留の動向

米、欧州連合(EU)、加、豪、東南アジア諸国連合(ASEAN)など世界で取り組まれ昨年時点で稼働・計画中の回収量は約3.5億トンと予想される。日本では昨夏、令和12(2030)年までの事業開始を目指す脱炭素成長型経済構造移行推進戦略を閣議決定。今年5月に二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)が成立した。北海道・苫小牧港沖の実証試験では元年に30万トン貯留を達成した。政府は事業のコスト削減、事業者への支援策、貯留状態の監視体制などを検討している。

記者の独り言

デジタル化による情報通信の飛躍的発展を支える大規模データセンターは大量の電力を消費し、家庭やオフィスに加えて電力依存が高まるばかり。燃焼炉や自動車も化石燃料から電力への移行が試みられる。加速する電力需要と脱炭素に対応しようと風力・太陽光発電が急増したが、どちらも環境破壊が問題化し、電気自動車(EV)化を急いだ欧州メーカーは失速している。電力以外で稼働するものは環境対応しながら残すのが堅実だ。CO2回収貯留はその心柱なのではないか。(八並朋昌)

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