次世代エネルギーとして期待される核融合発電の開発競争が世界で加速してきた。二酸化炭素(CO2)を排出せず膨大なエネルギーを得られる夢の技術に各国が注目。資源小国の日本は2030年代の発電実証を目指し、今夏に新たな国家戦略を策定する。米国は40年代の商業化を目指し、中国も実験施設の建設を進める。各国とも実用化で先陣を切り、新たな産業として育てたい考えだ。
核融合は太陽内部で起きている反応で、軽い原子核同士が合体し重い原子核になる際に膨大なエネルギーを放つ。このエネルギーを利用するのが核融合発電だ。燃料は海水などからほぼ無尽蔵に作り出すことができ、1グラムの燃料で石油8トン分のエネルギーが取り出せる。
原発と同じ脱炭素電源でもある。だが原発の核分裂に比べ、核融合は燃料供給を止めれば反応が止まるため安全性は高い。放射性廃棄物は出るが、原発の使用済み核燃料のような高レベルなものではないという。
資源小国である日本は核融合発電を将来の安定エネルギーと見据え、早期実用化に向け取り組みを急ぐ。政府は23年に策定した国家戦略を今夏までに改定、30年代の発電実証を視野に方策をとりまとめる考えだ。
1月28日には核融合反応を使う装置の安全規制について、原発の原子炉とは別の、放射性物質を使う実験機器などを対象とする法律で対応する方針を決めた。厳しい規制で開発が遅れるのを避ける狙いで、開発の具体化に合わせて安全確保の枠組みを改めて検討する。
城内実科学技術担当相は1月31日の記者会見で「安全確保の基本的な考え方や官民の研究開発力の強化などに関する議論を深めて戦略に反映する」と語った。
企業主導の動きも出てきた。新興企業の京都フュージョニアリングは核融合発電の実証に向けた産学連携プロジェクトを立ち上げた。大学の研究者や企業と原型炉開発に取り組み、30年代後半の実証を目指す。
海外では、米国の国立研究所が22年に世界で初めて燃料に投入した以上のエネルギーを核融合で生み出すことに成功し、実用化への期待が高まった。米国では新興企業の参入も相次ぎ、40年代の商業化を目指す。
中国は実験施設を建設中で、稼働開始を急いでいるという。英国やドイツも40年ごろまでに発電実証に踏み切りたい考えだ。一方、日本など各国が参加する国際熱核融合実験炉(ITER)の計画は遅れている。
日本政府関係者は「日本が培ってきた核融合の技術は高い。実用化を急いで産業化につなげ、世界市場も狙いたい」と話している。