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電気・ガスの防災、教訓生かす最後のチャンス 阪神大震災30年、現役で残る人少なく

産経ニュース 2025年1月17日 18時2分

近代都市を襲う大地震の恐ろしさを知らしめた阪神大震災の発生から17日で30年となった。震度7の激震は、建物はもちろん、電気やガスといったライフラインにも大きな被害をもたらした。インフラを担う関西電力や大阪ガスなどの各社は、今後の南海トラフ巨大地震も想定される中、当時の教訓を糧に防災・減災の対策を進めている。

鉄塔や変圧器の統一化進む

「街に近づくにつれてすごい異臭が漂ってきて、大変なことになっていると感じた」。関西電力送配電の白銀隆之社長は当時、関電の神戸支店で変電所の管理を担当しており、地震発生翌日に船で神戸に入ったときの印象をそう語る。被害が大きかった神戸市長田区の変電所は外壁が焼け焦げ、「言葉にならない衝撃を受けた」という。

被害は変電所だけでなく、電力用の電柱約1万1千本が倒壊・破損するなどして260万戸が停電した。社員の奮闘で1日余りで変電設備まで電気を送れるようになったものの、各家庭へと届けるには電線をつなぐ必要がある。他電力からの応援を含む6千人以上が投入され、地震発生から6日後には電気の応急復旧にこぎつけた。電力業界が一丸となったことで早期復旧を成し遂げた。

この経験を踏まえて、白銀社長が防災・減災に向けて重視するのが「マニュアルや機材の統一」だ。都市部で大地震が発生すると送電設備の破損は避けられず、復旧には企業の垣根を越えた協力が不可欠となる。大手電力各社は平成29年度から主要な鉄塔や変圧器などの機材や仕様の統一化を進めており、応援に来た人員が混乱なく作業できる体制の整備が進む。

津波対策としては、南海トラフ巨大地震で浸水被害が想定される和歌山県内の鉄塔のかさ上げを行っている。

企業の垣根越えた訓練を初開催

一方、ガスは一般家庭向けの低圧導管が多数被害を受け最大約85万7千戸が供給停止となった。大阪ガスの対策本部で復旧に携わったOBの中嶋規之氏は、地震発生直後に神戸に向かって車を走らせた際、どんどんガスのにおいが強くなるのを感じた。「これでガス事業は終わるんだなと思った」と振り返る。

ガス漏れによる2次被害防止のため、復旧には道路を掘り返して破損した導管を修理する必要がある。対策本部で本部長として指揮を執った上林博氏は「破損箇所から流入した水や土砂の除去に時間がかかった」と話す。全国のガス事業者からの応援を合わせて約1万人体制で作業したが、復旧には84日を要した。

震災以降、対策として進んだのがガス管の耐震化だ。柔軟性があり、地震で力が加わってもガス漏れが起きにくい「ポリエチレン管」は、当時の約15倍の1万8300キロまで延伸。ガス管が破損しても供給停止範囲を最小限にできるよう導管網のブロックを55から727に細分化している。

復旧作業の迅速化に向けては、昨年11月に東京ガスや東邦ガスと地震発生時の合同訓練を大阪市内で初めて開催。連携して活動できる体制づくりを強化している。

AIを活用し事前に補強

南海トラフ巨大地震の発生リスクが高まる中、阪神大震災当時はなかった人工知能(AI)を活用した防災・減災対策が広がりを見せている。

NTTは昨年、災害によるインフラの被災予測AIを構築したと発表。グループ内で蓄積した被災データと、地形や気象などの公開データを組み合わせており、90%前後の高い精度で予測できるという。通信ケーブルなどが通る地下管路の被災予測が可能で、事前に補強を行うことで防災・減災に役立てられる。

令和8年度の実用化を目指しており、担当者は「まずはNTTの通信設備から活用し、電柱などの社会インフラへの対応も検討する」とする。

クボタは、AIを活用して地震などの自然災害での水道管被害を予測できるシステムを開発。老朽度の診断と合わせて断水戸数が多い地域が簡単に把握できるため、自治体がリスクの高いエリアの水道管を優先して更新しやすくなる。

スタートアップ(新興企業)のスぺクティ(東京)が提供する、AIによって交流サイト(SNS)に投稿される被害状況をリアルタイムで覚知可能な「スペクティプロ」は、2年から神戸市に導入されている。災害発生時、自治体には関係機関などから数多くの被害情報が寄せられるが、中には誤報も含まれる。AIがデマやフェイクニュースを取り除いたSNSの投稿と照らし合わせることで、迅速に被害の有無が確認できる。

阪神大震災から30年がたち、当時は存在しなかった技術やサービスの活用が重要になっている。(桑島浩任)

インフラの耐震化に地域差 神戸大大学院の鍬田泰子教授

日本におけるインフラの耐震性は、阪神大震災が契機となり大きく強化されている。災害発生時のインフラ企業同士による協力体制も構築されており、30年前と比べて迅速な復旧が可能になっているのは間違いない。

ただ、インフラの耐震化にはお金がかかるという問題がある。例えば水道は、人口減少が進む中で地域によって水道管の整備に格差が生まれている。そのため、昨年1月の能登半島地震のように断水が長期化するという事態も起きてしまっている。インフラに着実に投資するとともに、人が減っているなら技術力を高めることで対応する必要があるだろう。

防災に対する意識をいかに維持するかも重要だ。被災した地域は、その後数年はインフラなどの耐震化率が伸びる傾向にある。兵庫県内では神戸や芦屋、西宮は頑張っている。だが、災害を経験していない地域は耐震化の伸びが鈍い。

震災から30年というのは、当時現場を経験した人たちが現役として残っている最後のチャンス。この機会に地震対策の啓発をしていくべきだ。

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