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<独自>iPS心筋球移植、治験で細胞量3倍に 安全委承認、心機能の改善効果増強

産経ニュース 2024年7月30日 8時26分

慶応大発バイオベンチャーのハートシード(東京都港区)が実施中の、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作った心臓の筋肉(心筋)を球状に加工し重い心不全患者に移植する治験について、移植量を3倍に増やす段階への移行が承認されたことが30日、分かった。

国の指針に基づく外部の安全性評価委員会が、これまで実施した患者5人で安全性を十分に確認できたと判断した。既に一定の心機能回復効果が確認されており、細胞数の増加で、治療効果はさらに高まるとみられる。

治験は、iPS細胞由来の心筋細胞を約1000個、ひとかたまりの心筋球に加工して特殊な注射針で患者10人の心臓に移植する計画。前半の5人は、移植する心筋球を1人当たり約5万個(細胞数約5000万個)とし、重篤な不整脈やがん化、腫瘍化が起きないことを確認した。

今回、評価委が安全性を確認したことにより、後半の6人目からは移植する心筋球を約15万個(細胞数約1億5000万個)に増やす。これまでも、心臓が血液を送り出す力を示す収縮率(健常者は平均約65%)が17%に低下していた患者が、移植後は2倍超の39%に改善するなど、心機能の回復効果が確認されており、移植する細胞の量が3倍に増えることによって、さらなる効果の向上を期待している。

6人目の移植は、今夏実施する予定。同社の福田恵一社長(慶応大名誉教授)は「移植細胞数増加の承認は、実用化に向けた重要なマイルストーン(通過すべき区切り)だ。移植の有効性をきちんと確認し、心不全患者に新たな治療法を早く届けたい」と話している。

心臓病は、日本人の死因のうち、がんに次いで多く、年間約23万人が亡くなっている。中でも心不全は高齢者を中心に増えており、国内患者数は約120万人と推定されているが、特効薬はない。重篤時の治療法は、心臓移植や補助人工心臓の装着などだが、臓器提供者の不足や患者の肉体的負担の大きさなど課題が多い。

iPS心筋球移植による心不全治療も、現時点は開胸手術が必要で、心臓移植ほどではないが、肉体的負担は小さいとはいえない。そのためハートシードは、血管にカテーテルという器具を挿入することで、開胸手術なしで心筋球を移植する方法を開発。デンマークの製薬大手ノボノルディスクとともに、近く世界規模の治験を開始する。

現在行っている国内での治験の対象は、心不全のうち虚血性心筋症だけだが、世界規模の治験では、拡張型心筋症など他のタイプの心不全にも対象を広げる計画だ。

(伊藤壽一郎)

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