事故から3月で14年がたつ東電福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)では廃炉作業が進む。廃炉の実現には、合計880トンと推計される構造物と燃料が高温で溶けて混ざり合った溶融燃料(デブリ)の取り出しなど、〝未知の領域〟の壁が数多く立ちはだかる。廃炉に不可欠な技術開発を行う上で、重要な役割を担っているのが事故を免れた5号機。特別な許可を得て内部に入った。
防護服で内部へ
福島第1原発には1~6号機まで原子炉が6基ある。そのうち双葉町にある5、6号機は東日本大震災発生当時、定期検査で運転を停止していて電源も確保できたため、大きな損傷を免れた。
5号機は事故が起きた2、3号機と構造がほぼ同じ。そのため、廃炉作業に欠かせない原子炉格納容器内部の細かい寸法の確認や、作業用ロボットをどのように内部に入れるかの検証などに利用されている。貴重な〝実物大の研究開発施設〟だ。
現在、福島第1原発の約96%は一般的な作業服と防塵マスク姿で入れる「Gゾーン」になっている。しかし、5号機内部は管理が厳しい「Yゾーン」。中に入るには服の上にカバーオールと呼ばれる白い防護服を着用、靴下は3重に履かなくてはならない。靴も専用のものが用意されている。
手袋は綿とゴムのものを2枚重ねて着用するため、手の感触が薄れてカメラの操作が難しい。撮影に夢中になっているとカメラバッグを床に置かないよう注意された。不用意な汚染を防ぐためで原子炉の内部にいることを実感した。
原子炉格納容器内にある圧力容器を支える土台の作業空間は狭く、立って歩くこともできない。持ち込んだ超広角レンズでも画角が足らなかった。天井部にある複雑な制御棒駆動機構からは、無数の突起物が出ている。注意していても移動のたびにヘルメットが当たってしまう。
事故を起こした原子炉では、これらの機器などと燃料が高熱で溶けて混ざり、格納容器や圧力容器の下に落ちて固まっている。
貫通穴「X6ペネ」
東電は昨年11月、2号機から約0・7グラムのデブリの試験的取り出しに初めて成功した。使われたのは「テレスコ式」と呼ばれる釣りざお状の回収装置。この装置を原子炉内部に入れる際は「X6ペネトレーション」(通称・X6ペネ)と呼ばれる、内径55センチの貫通部を利用した。
「X6ペネ」は近くで見ると想像以上に小さい。数カ所ある貫通部からX6ペネが選ばれたのは、原子炉格納容器内のデブリがある場所に、比較的アクセスしやすいため。それでも、内部構造を見るとX6ペネを通過した回収装置は、微妙に角度を変える必要があることなどが分かる。
春に2度目の挑戦
東電は今年の春ごろをめどに、2号機で2回目の試験的デブリ取り出しを行う計画だ。ただ、作業は昨年取り出しに使った回収装置で行い、開発を進めているロボットアームの使用は見送る。
5号機の内部で改めて痛感したのは廃炉作業の難しさだった。国が定めた目標行程「中長期ロードマップ」では廃炉完了まで30~40年としている。ただ、ロードマップ上の作業開始時期は原子炉が冷温停止した平成23年12月。既にそこから13年余りが経過している。(芹沢伸生)