「ピヒャララ、ピヒャラー!」
独特の節をつけた賑やかな祭り囃子(ばやし)が、いつまでも耳の奥に響いている。
10月の三連休、大津祭が佳境を迎えていた。曳山巡行の当日、からくり人形を載せた曳山が朝から夕暮れにかけて町をめぐる。
着飾った町衆たちが身を乗り出して笛を吹き、体を揺らしながら、絢爛な曳山と一体になって進んでいく。
風情ある大津百町の街並みが夕焼け色に染まる頃、山車(だし)は辻々で立ち止まり、演奏やからくりを余すところなく披露して、名残惜しそうに帰っていった。
その曳山のなかに、地元の酒蔵、平井商店蔵元の平井将太郎さんの姿を見つけた。
「西王母山(さいおうぼざん)」の笛の吹き手をつとめる姿は、精悍に輝いていた。いつもの柔和で親しみやすい雰囲気から、お祭り姿と普段とのギャップに、その場で見ていた共通の友人らも感心しきり。銘酒「浅茅生(あさぢを)」には欠かせない、ハレの日の一幕であった。
この日、浜大津では「秋の大おさけ日和」が開催されていた。
平成28年から大津市内で開催されてきた滋賀酒を楽しむイベントで、年々規模も大きくなり、今回は滋賀県酒造組合との合同イベントとして組合加盟の全酒蔵が参加することとなった。
会場となった京阪びわ湖浜大津駅前広場一帯は、滋賀酒を楽しみに訪れた人々で、朝から大賑わいであった。
私も毎度、このイベントの物販ブースで自著を販売させて頂いている。滋賀酒に酔いしれる人々を嬉しく眺めながら、ちょくちょく差し入れのお酒や肴(さかな)をいただいて、今回も程よくいい具合になっていった。
天気にも恵まれ、大津港から爽快な風を浴びる。ここで蔵元さん直々についでもらって飲むお酒は、この上ないものである。滋賀の気風そのままに、おだやかな空間が生まれていた。これもひとえに、地元の酒販店や飲食店などを中心に、滋賀酒を心から愛し、応援してきた「おさけ日和」の運営陣の賜物である。他県でも類をみないほど、地元と蔵元との一体感が功を奏している日本酒イベントなのではないだろうか。
そしてイベント終了直後、冒頭の大津祭にも遭遇した。祭の余韻を噛みしめながら、蔵元さんらと打ち上げ会場へと向かうのだった。
次回は春に開催予定とのこと。また大津での盛大な乾杯を楽しみにしている。
絵・文 松浦すみれ
まつうら・すみれ ルポ&イラストレーター。昭和58年京都生まれ。京都の〝お酒の神様〟をまつる神社で巫女として奉職した経験から日本酒の魅力にはまる。著書に「日本酒ガールの関西ほろ酔い蔵さんぽ」(コトコト刊)。移住先の滋賀と京都を行き来しながら活動している。