男性の育児休業取得率が上がり育児参加が進む中、育児と仕事との板挟みによるメンタル不調に陥るケースがある。「父親の産後うつ」と呼ばれ、出産を経験しない父親にも母親と同程度のリスクがあるとの調査結果もある。これまで母親への支援は行われてきたが、父親向けの支援は少なく、専門家は父親も支援を受ける対象であると認識することが重要だと指摘する。11月19日の「国際男性デー」を前に、当事者や医師らに取材した。
頑張りたい気持ちが裏目に
「常に何かに追われている状態で圧迫されている感じ。落ち着ける瞬間はなかった」
山口県在住で自営業の斉藤圭祐さん(36)は令和4年5月、第二子の次女が生後5か月の時に「うつ病」と診断された。斉藤さんは妻が長女を妊娠した時から積極的に育児に参加していたが、育児と仕事の両立は容易ではなかった。
当時、新規事業の立ち上げと出産時期が重なったことや、子供の夜泣きが続いたことで十分な睡眠が確保できないなど疲労は蓄積。他者を頼ることよりも自分自身で解決しなければという気持ちが強かった。
「仕事以外に家事も育児もできるだけ僕もやろう。自分がやらないと」。妻の力になろうとする中、仕事において前向きな発想ができず、会議中もなかなか言葉が出ない。急に悲しくなったり、感情をコントロールできなくなったりした。
このままでは潰れてしまう。そう思い、医療機関を受診。カウンセリングなどを通じて、現在、症状は改善した。斉藤さんは「育児をしながら働いて生活をすることは難しい」といい、「どういうところが頼れるのか、事前に知っておくことは心の安心になる」と話す。
母親と同水準の発症リスク
国立成育医療研究センター(東京)が令和2年に1歳未満の子供がいる3514世帯を対象に行った調査によると、うつの可能性が高いと判断された男性は11%。女性は10・8%とほぼ変わらない結果となった。
産婦人科医で産後のメンタルヘルスに詳しい平野翔大医師は、「女性の産後うつは、産後ホルモンの減少によって気分が落ち込んだり不安になったりするマタニティーブルーが要因の一つである。一方で、男性にはマタニティーブルーはないが、女性と同じように育児に対する不安や仕事と育児の両立による心身の負担が増え、産後うつが生じる場合が多い」と話す。
また、男性の場合は誰にも相談せず、抱え込みやすいという特徴があるという。父親として仕事をして家族を支え、育児もしていかなければならない。こうした思いを抱え込んだままメンタル不調に陥ってしまうという。
母親が産後うつになった場合も同様で、「自分が弱音を吐いてはいけない」と頑張り続けた結果、潰れてしまうことは男性側にありがちだという。平野医師は「父親もメンタル不調を起こすリスクがあるため、産後のケアが必要だ」と訴える。
始まる「父親」への支援
政府が民間企業の男性育休取得率を7年度までに50%とする目標を掲げる中、厚生労働省の5年度雇用均等基本調査では、男性の育休取得率は30・1%となった。初めて30%を超え、4年度の17・13%から増加した。今後も注目される男性の育児参加において、行政や病院では父親を支援する取り組みが行われている。
東京都生活文化スポーツ局が運営するウェブサイト「TEAM家事・育児」は、家事や育児に役立つ情報をイラストや動画などを活用して発信している。その中で、男性の産後うつに関する記事を掲載。昨年に掲載した記事だが、現在でもアクセスランキングでは上位に位置し、広く関心を集め続けているという。
また、今年1月に信州大学医学部付属病院(長野県)で、育児に関する父親のメンタル不調などを専門とした「周産期の父親の外来」が新設されるなど、育児に関する父親への支援は広まりつつある。