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喜んで買っていただくコツ 守り続ける先輩に学んだ「最初の挨拶」と「最後の押し」 話の肖像画 夢グループ創業者・石田重廣<2>

産経ニュース 2024年11月2日 10時0分

《売り上げ1億円を超えるヒット商品が50点以上にものぼる〝通販の達人〟だ。買ってもらうことで大事なのは、相手との「タイミング」という》

社会人になって最初は、百科事典や地球儀などを訪問販売する会社で働いていました。入社直後は先輩について回って、セールスのコツを覚えるんです。マニュアルもない時代でどう売ればいいか、皆目見当がつきませんから。幸いだったのは、僕の担当が月100万円以上も売り上げる優秀な先輩だったんです。

で、この先輩から何を教わったか。「いいか、石田。マンションは上の階から回るんだぞ」と、まずは訪問の順序です。いぶかる僕に「いいか。音というものは上に響く。1階で商談したら、2階の人は『セールスマンが来ているな』と警戒し、会ってくれなくなるぞ」と。

そういうもんなんだと感心していたら、今度は「玄関でピンポンと呼び鈴を鳴らしたらダメだ。ドアをドンドンと強くたたくのもダメだぞ」と言う。「訪問販売なのになんで?」ってなりますよね。でも先輩は「聞こえるか、聞こえないかくらいで優しくドアをたたき、『誰? 何?』って開いた瞬間が大事なんだぞ」と言うんです。

で、「ドアが開いたそのタイミングで、『○○さん、こんにちは』と語りかけろ。名前はちゃんと表札で確認しとくんだぞ」と。相手の警戒心をかいくぐって、家に上げてもらうテクニックです。大事なのは相手の心が自分に傾いたタイミングを逃さないことだ、と。成績はトップなのに、何でも教えてくれる優しい先輩でした。

《家の中でのやりとりでも》

家に上がってからについても、この先輩の教えは続きます。「いいか、石田。お前には福島訛(なまり)があって商品の説明には不向きだ。説明で勝負してもダメだぞ」。「どういうことなんですか」となりますよね。そうしたら同じマンションを回っていた別の先輩を指さし、「いいか。あいつは説明がものすごく上手なんだ。でもいつも売れずに帰ってくる。よく見てろ」と言う。2人でしばらく待っていたら、その別の先輩はやはり商品を売れずに家から出てきた。

そしたら先輩が「じゃあ俺、行ってくるから」と、その家に向かうではないですか。「さっき断られたばかりで無理ですよ」と止めたのですが、先輩は「まあ行ってみる」と。ほどなくして先輩は商品を売ってきた。目を疑いましたね。

「なんで売れたのですか」と聞くと、「商品説明はしなかったよ、前の彼がしてくれたから。肝心なのはドアが開いた瞬間の『最初の挨拶』と、これを買ってくださいという『最後の押し』なんだ。この『最後の押し』のタイミングを見極めるのも大事だぞ」と。お客さまに商品を買っていただくということは大変なことなんです。この先輩から学んだものは大きかったですね。

《この先輩の教えは通販のCMや番組で生かされている》

通販CMは主に120秒の中で、「商品説明はこのくらい」「買ってくださいという『最後の押し』はこのタイミングで」と考えます。商品説明はいいところを3点ほどに絞り、それも「面白い」より「すごい」と思ってもらうように話します。

主催する夢コンサートの会場でペンライトを売ったときのことです。最初はステージから「1本500円です。楽しんでみては」と呼びかけたのですが、なかなか買ってくれない。そこで次回から、「ペンライトを振るなんて恥ずかしいですよね」と否定から入り、「本日はフォーリーブスのノリノリの曲があるんです。振ってみませんか」「夜道を歩くときにも役立ちます」「お孫さんへのお土産にどうですか」と押しました。売れましたね。お客さまに喜んで買っていただける状況をつくる。それが商売だと思っております。(聞き手 大野正利)

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