――郵政三事業の民営化に対する郵政省の反論は、新聞社側の再販制度維持の主張に似ているという話でしたが。
渡辺 新聞は全国どこでも同一紙同一価格。郵便は、東京都内で千代田区から中央区に配達しようと、千代田区から沖縄に配達しようと全国同一料金、それは公共事業として官庁の郵政省がやっているからだ、とね。それがなくなったら、それこそ文化格差が起き、国民生活はおかしくなるとも言ってますよ。
しかし、新聞は、朝夕刊を午前六時とか、午後五時とか定時に各家庭に配達する。そして朝夕刊セットで読売は五十六ページです。それだけの情報量が入った重いものが一日百円強。それに対して、はがきは一枚五十円、封筒は八十円。年賀状は一軒あたり百枚や千枚は来るから、たいへんなもうけです。しかも、郵便物が早朝とか夕食時のような定時に配達されるなんて話は聞いたことない。
それに比べると、新聞の戸別配達による料金は、極めて安い。第三種郵便物という低料金システムもあるが、もし新聞を朝夕刊セットで一日一回郵便局に第三種で配達してもらうと、一カ月で千九百二十円の郵便料金を払うことになる。しかも、配達は何時になるか分からない。新聞の戸別配達がいかに便利で安いかが分かるでしょう。
――その戸別配達も新聞の再販制度がなくなると、危うくなる。
渡辺 再販制度がなくなれば、一般の産業でいえば末端の小売店である販売店が個々に値決めをするということになる。そうなったら、費用対効果を超越した公共性という概念は通用しなくなると思うんです。だから、過疎地は遅れて配達する、あるいは配達を放棄する。値段を高くする。こういう現象が起きるのは当然ですよね。そうなると戸別配達は崩壊していく恐れが十分にある。
アメリカでも、僕がワシントンに在勤しとったころ(昭和四十三年九月-四十七年一月、ワシントン支局長)、ワシントンに三紙があったが、いま事実上、一紙ですよ。かつて「イブニング・スター」「ワシントン・スター」「ワシントン・ポスト」と三紙がてい立していたが、二紙がつぶれて「ワシントン・ポスト」一紙の独占になっている。「ワシントン・タイムズ」というのがありますが…。
われわれ(ワシントン駐在特派員)は「ワシントン・ポスト」だけじゃなく、ほかの新聞も読みたい。たとえば「ニューヨーク・タイムズ」とか、「クリスチャン・サイエンス・モニター」とか、「シカゴ・トリビューン」とか。そういうものを早く読みたい。新聞スタンドには売っているところもあるし、「ニューヨーク・タイムズ」は(各社の支局が入っている)ナショナル・プレス・ビルディングの売店にも売っている。だけど、自宅には宅配されなかった。「ワシントン・ポスト」は宅配されているけども、「ニューヨーク・タイムズ」は遠くまで行かなきゃ買えない。
しかし、最近の事情を聴くと、再販制度のない米国でも日本の宅配を学び、たとえばワシントンでもニューヨーク・タイムズを宅配するようになったし、きちんとした定価販売をし、事実上再販制度が維持されているようだ。日本は戸別配達の先進国だが、これは再販制度のおかげですよ。 (文化部長 小林静雄)