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山梨・石和温泉で「美肌泉質」の密集確認 女性客取り込みへ歓楽温泉街のイメージ脱却

産経ニュース 2024年9月11日 10時0分

コンパニオンを配置した旅館など歓楽温泉街のイメージが強い山梨県笛吹市の「石和(いさわ)温泉」は、温泉や旅行に対するニーズの大きな変化を受け、女性やファミリー層を取り込む必要性に迫られている。その中で大手化粧品会社が石和温泉に「美肌泉質」が密集していることを確認した。もともと肌に良い温泉といわれていたが、明確なエビデンス(科学的根拠)を獲得したことで、これまで取り込めていなかった女性客への訴求力を強めることができ、イメージの転換にもつながる期待が高まっている。

徒歩30分圏内に3種

化粧品大手、ポーラ・オルビスホールディングス(東京)の肌知見を生かした新規事業である「美肌温泉プロデュースタスクフォース」は、石和温泉の6つの温泉宿、施設の湯を調査分析し、徒歩30分圏内に3種類の美肌泉質が分布していると公表した。

同社は温泉水が肌に与える影響、特に角層細胞への作用と皮脂を取り除く作用に着目し、作用別に6種に美肌効果を分類している。調査の結果、石和温泉にはこの6種のうち、明るくしなやかな肌を目指すという「ほぐしブースター」が「ホテル八田」などの計2施設、ふっくらでぷるんとした肌への「エクスプレス潤化」が「石和名湯館 糸柳」に、うるおいツヤめく肌への「バリア・オアシス」が「旅館深雪温泉」など3施設といったように6施設で3種があるとした。

同タスクフォースの山川弓香オペレーティング担当によると、「令和3年に島根県の温泉14カ所の美肌効果を公表した際に、山梨県の石和温泉管理事務所の担当者から連携できないかと依頼された」ことがきっかけで、石和温泉での調査・分析に取り組み、エビデンスを確認した。3種の美肌泉質6施設すべてがJR石和温泉駅から2キロ圏内と「非常に近接していることは珍しい」(山川氏)という。

この距離の近さを生かした3種の美肌泉質の季節別の「美肌湯めぐり」も提案している。紫外線による日焼けで肌がかさつく夏場には、まず、ほぐしブースターで不要な角質をとり、次にエクスプレス潤化で角質を整え、最後にバリア・オアシスで潤いを満たすという。季節によっては美肌湯治の順番が変わっていくため、季節ごとのリピーター獲得や、温泉街のそぞろ歩きといった回遊拡大につなげる狙いだ。

直に〝刺さる〟ワード

今回のエビデンス獲得は石和温泉の新たな魅力訴求につながる。高度経済成長期、バブル期などは「首都圏の奥座敷」として社員旅行や団体旅行をメインターゲットにしてきた石和温泉は男性向けのイメージが強い。だが、旅行の個人化や新型コロナ禍による旅行形態の大きな変化には十分対応できていないのが実情だ。団体旅行をベースとしながらも「新たに個人客、ファミリー客、そして旅行に決定権を持つ女性の誘客で新しいマーケットを追加する重要性」は観光業界関係者の共通認識だ。

ホテル八田の八田知子女将は美肌の要素は「女性にダイレクトに〝刺さる〟ワードだ」とし、「アルカリ単純泉で肌がつるつるすべすべになるとこれまでもいわれてきたが、それが科学的にお墨付きを得た」と喜ぶ。ホテル八田ではエビデンスが6月末に公表されたばかりのため、ホームページや館内のチラシでの美肌泉質宣伝にとどまっている。だが、すでに大手旅行会社がこの石和温泉の美肌泉質エビデンスに興味を示していることから、来年以降、大型のキャンペーンにつながるのではといった期待も大きい。

格好の材料も鈍い支援

その一方、行政などの支援の動きは鈍い。山梨県や笛吹市の関係者も現時点では美肌泉質エビデンスを活用した石和温泉の観光誘引施策は検討していない。民間企業のエビデンスであることなどで、行政として動きにくいといった背景はあるものの、歓楽温泉以外の新しいイメージや魅力を訴求しなくてはならない石和温泉にとって、格好の材料であることは間違いない。

県は富士山以外の新たな観光コンテンツ開拓を県内各地で進め、笛吹市も富士北麓地域から甲府盆地内の笛吹市への観光客誘引の重要性をことあるごとに強調してきた。それだけに、現時点の石和温泉への〝塩対応〟は残念でしかない。(平尾孝)

石和温泉 甲府盆地のほぼ中央に位置する温泉地。昭和36年に、石和のぶどう園から高温の湯が湧き、付近の川に流れ出して誕生した「青空温泉」が有名に。温泉観光地として発展し、特にコンパニオンコースを前面に押し出した旅館や周辺のスナックなど団体客向けの歓楽温泉街として知られてきた。

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