毎年夏に「スーパーカップダンススタジアム」として開催される日本高校ダンス部選手権(産経新聞社など主催)で、現在の全国大会形式となった第4回大会以降、昨夏の第17回大会まで14年間、大阪勢がビッグクラス(13~40人)かスモールクラス(2~12人)のいずれかで日本一を勝ち取る状況が続く。3月には各地で新人戦も始まり、夏に向けた戦いが本格化する。昨夏の大会のビッグクラスで連覇した帝塚山学院(大阪市)、スモールクラスで初優勝した樟蔭(大阪府東大阪市)を通じ、なぜ大阪勢が「ダンス王国」としての存在感を発揮しているのか探った。
帝塚山「心は一つ」
大人数で踊る〝花形〟のビッグクラスで日本一となった帝塚山学院は、ポリネシア神話に伝わる半神半人「マウイ」の生き方を創作ダンスとして表現。40人が一糸乱れぬ踊りで、同クラスでは平成30年の同志社香里(大阪府寝屋川市)以来の2連覇を飾った。
キャプテンを務めた富平響さん(3年)は強さの源泉を「チームワーク」と強調する。中高一貫の女子校で、富平さんの世代は中3時のダンスタ中学大会でも日本一を獲得。期待されていた世代で、富平さんは「中学時代もチームでトラブルがあれば自分たちで解決する。そうした経験が高校でも生かされた」と明かす。
部員約60人。モットーは「心は一つ」。先輩後輩の間でも意見を言い合う文化があるという。ただ、大会が近づいた昨年6月ごろ、2連覇を狙うプレッシャーから「作品も含め、焦りが出た」(副キャプテンの3年、出原華さん)という。
実力を出し切るため、部員らで徹底的に話し合った。目指すは「連覇にこだわらず、日本一愛されるチームになろう」(富平さん)。8月の準決勝、9月の決勝と「不安がなくなるまで練習した」(出原さん)。
指導する山浦真由美顧問は連覇の理由を、生徒らが「謙虚に努力し、昨日の自分を超えようと果敢に挑戦し続けた」とみる。「これだけやらないと日本一にはなれない〝ものさし〟ができた」と強さを表現する。
今年の夏は平成23~25年に同志社香里が達成した3連覇の偉業に挑む。新キャプテンの小林央果(ひろか)さん(2年)は、自然体で挑むとし「先輩らを参考にチームをひとつに作り上げたい」と意気込む。
樟蔭 タブーに挑戦
少人数の精鋭で踊るスモールクラスで初優勝した樟蔭は「人間の欲」をテーマに、交流サイト(SNS)で誹謗(ひぼう)中傷が目立つ現代に生きる人らに勇気を与えるメッセージを込めた踊りを演じた。
選曲は「♪死にたい死にたい…」という歌詞で始まる歌手のタテタカコさんの『冒涜(ぼうとく)』。決して明るい曲調でなく〝タブー〟をテーマとした演技が高校ダンスで珍しいと評価された。
こうした踊りを仕掛けたのが振付師のNORI(ノリ)さん。世界大会優勝の実績がある神戸市のダンスチーム「N’ism(エヌイズム)」を率い、東京2020パラリンピック閉会式の振り付けを担当した女性だ。長年、樟蔭のダンス部を指導してきた青木郁美監督のラブコールが実り、特別コーチに就いた。
樟蔭も中高一貫の女子校。部員は約50人。高校ダンスの名門校で知られるが「入賞は続くが、長年優勝がなかった」(青木監督)という課題も。一皮むけるために、NORIさんに白羽の矢を立てた。
NORIさんはコーチ就任を数年断り続けたが「先生の熱意や生徒らの本気度を感じ、優勝を狙うチームをつくる」と引き受けた。「能力と根性を基準に選んだ」という10人を指導し、一昨年の大会でスモール3位、2年目の昨年は優勝。「3位の悔しさを知る3年生が頑張った。審査員らに高校ダンスで見たことがない作品と評価された」と振り返る。
NORIさんの指導法もいまどき〝タブー〟だという。決して褒めない。「私に怒られ『くそー』と奮い立った気持ちをダンスに生かしてもらう。私が嫌われ役に徹すると、生徒らは一致団結する。それが勝つための狙い」と解説する。
部長の高島向日葵(ひまわり)さん(3年)は「10人で一体感を出すのが難しいダンスだったが、エヌイズムの動画を何回も見て練習した」と話す。青木監督も、NORIさんの指導で「樟蔭のダンスがプロの作品に変わった」と感謝した。
今年の夏は、スモールクラスで平成28~29年の箕面(大阪府箕面市)以来の2連覇がかかる。野本真央さん(2年)は「代替わりでどうしたら2連覇できるか。プレッシャーは少しあるが、いいチームをつくりたい」と今後を見据える。
近畿→全国制覇
日本高校ダンス部選手権の歴史をひもとくと、第4回大会以降、大阪勢はビッグクラスで14回中13回、スモールクラスで9回の日本一に輝いた。地区予選の近畿大会を制することが全国制覇への近道になっている。
ただ、近年は高校ダンスが全国区となりレベルも上がってきたとされ、特にスモールは他県勢の優勝が目立ってきた。夏の前哨戦といえる3月の「日本高校ダンス部選手権新人戦」をにらみ、各校の練習は熱を帯び始めた。今年も大阪勢の〝独壇場〟が続くか注目される。(西川博明)