平成7年の阪神大震災で全壊した谷崎潤一郎の旧邸「鎖瀾閣(さらんかく)」(神戸市東灘区)を、仮想現実(VR)技術で再現した映像が12日、報道陣や関係者らに公開された。震災前の建物の特徴が忠実に再現され、VR映像の一部はユーチューブでも17日から閲覧できる。
谷崎の研究を約40年続けている武庫川女子大名誉教授、たつみ都志(とし)さんが中心となり、たつみさんが理事長を務めるNPO法人「潤」(大阪府池田市)が約1年前に映像制作に着手。これまで集めた建物内外の写真や、それをもとに作成した設計図を活用し、作業を進めた。制作費約600万円は寄付などで集めた。
この日公開されたVR映像は約8分。中国風の屋根や純和風の書斎、洋風のバスタブが置かれた浴室など、鎖瀾閣の特徴である和洋中それぞれの様式が、立体的に体感できる。
たつみさんは「たくさんの人たちの協力で、震災から30年にして望みがかなった」と喜んだ。
鎖瀾閣は谷崎の小説「蓼喰(たでく)ふ虫」に出てくる家のモデルで、たつみさんによれば「谷崎の中に混在していた美意識を象徴する建物」という。
谷崎が鎖瀾閣で過ごしたのは昭和初期からの数年間。その後、ドラマの撮影に使われるなど良好な状態で維持されていたが、7年1月17日の震災で全壊した。