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台湾の将来を背負う人物とは 話の肖像画 モラロジー道徳教育財団顧問・金美齢<30>

産経ニュース 2024年8月31日 10時0分

《支持する民進党の頼清徳候補が当選した今年1月の総統選で、国民党候補と頼候補との一騎打ちに割って入ったのが新興勢力、民衆党の柯文哲候補。2014年11月の台北市長選では民進党の応援を受けて当選した人物である。政治献金の不適切処理で党主席を休職したが…》

柯文哲さんが当選した台北市長選で私は彼を応援した。対抗は国民党候補で、私が信頼している若い友人から「柯文哲候補以外の選択肢はない」って言われたこともあってね。柯文哲さんはお医者さんで、まだ名前が売れてないわけ。それで台湾と日本の議員やメディアに彼を紹介したのよ。

初対面の印象は強烈だった。当時、私が台北で定宿にしていたホテルにその友人が柯文哲さんを呼んでくれたのよ。柯文哲さんはゴッドハンドと言われるほどの手術の達人で、昼ごはんも食べられない忙しさだったみたい。あいさつもそこそこに、いきなり置いてあったサンドイッチをむしゃむしゃ食べ始めた。初対面の私を前に、何もしゃべらないでひたすら食べている。あっけにとられたね。

こんな人で大丈夫って思ったけど、国民党候補には勝たなければならず、知名度を上げるために大阪と東京でパーティーを開いた。台湾メディアが報道するからね。東京では知り合いの大物国会議員があいさつしてくれて大盛況だった。そうしたこともあって、彼は台北市長になれたんだと思う。

柯文哲さんは民進党の陳水扁元総統からの応援も受けていた。それなのに台北市長在任中、民衆党を立ち上げたのよ。国民党、民進党に対峙(たいじ)する第三極のトップになりたかったんだろうね。彼を私に紹介した若い友人は謝罪していた。今年1月の総統選で柯文哲さんは善戦した。政治の世界ではよくあることとは思うけど、台湾の将来を担う総統って、確固たる信念と義理を守る人じゃないとだめだと、私は思っている。

《闘う姿勢も必要》

私は国や国際社会のリーダーになる人は、実際に会ってから判断するようにしている。前にも話したけど、1996年に台湾で初めて行われた直接選挙での総統選で、私は国民党の李登輝さんを応援した。国民党一党独裁に反対しながら、民主化のシンボルである民進党の彭明敏さんでなかったんで、周りからは裏切り者扱いよ。でも民主化をやり遂げるのは李登輝さんだと思っていた。それは個人的な体験もあったからなの。

その初の総統選のはるか前、台湾から亡命中の彭明敏さんをメインスピーカーとした集会が米国で開かれた。そこに私は国民党派と対決するディベートで登壇したんだけど、国民党が全米で動員をかけたんで完全にアウェー状態。激しいヤジが飛んでいた。彭明敏さんが出るんで国民党への反対集会と思ったんでしょ。私は闘志が湧いたんだけど、彭明敏さんはディベートは中止にしようって言う。

私は「やりましょう」って続け、ディベートはすごく盛り上がった。そのとき思った。彭明敏さんはいざというときに引いちゃう人なんだと。その経験もあって民主化の英雄、彭明敏さんでなく、実直な李登輝さんを応援しようと思ったのよ。私が安倍晋三さんを応援したのも、こうした経験から。私が作った安倍さんのキャッチフレーズは「威張らない、裏切らない、そして戦う勇気がある」。そういう指導者ってめったにいない。

私はいつも言うんだけど、「幸運の女神」って後ろ髪がないのよ。目の前に現れた瞬間に前髪を捕まえないとダメで、追いかけても後ろ髪はないから取り逃がしちゃう。だから「幸運の女神」が現れたことを感じるため、いろんな情報から学んで準備していないといけない。個人的だけでなく台湾の将来もそう。この人こそ「幸運の女神」だと思える指導者を捕まえるよう、個々人の準備が必要だって思っている。(聞き手 大野正利)=明日から元駐米日本大使、藤崎一郎さん

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