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修業時代の思い出のコルネ、甘い匂いでよみがえる懐かしい記憶 大森由紀子のスイーツの世界

産経ニュース 2024年6月19日 9時0分

生きていてよかった!と思う瞬間があります。それは、点が線になる時。先日、主宰する教室でフランス・オーベルニュ地方の伝統菓子「コルネ・ド・ミュラ」を作りました。すると甘い匂いに導かれて、若い頃の、点が線になった瞬間の懐かしい記憶がよみがえりました。

パリでの修業時代、当時通っていた料理学校で、最終試験の課題は誕生日ケーキ作りでした。私はこの大切なケーキを、コルネ生地で作った繊細なバラの花で飾ろうと思い立ったのです。

コルネは卵白と砂糖、粉、バターなどを混ぜて薄く延ばした生地を焼き、熱いうちにすぐ巻いて作ります。冷めると生地がかたくなってきれいに丸くならないので、思い通りに仕上げるのは難しいのです。

私は夜を徹してコルネ生地でバラの花を作る練習をして、試験に挑みました。すると、普段は渋い点数しかつけない審査員シェフが「素晴らしい! 今日はユキコの誕生日だろう」と絶賛。シャンパーニュをふるまい、生徒や他のシェフたちと一緒に祝ってくれたのです。誕生日と同じくらい忘れられない一日になりました。

一晩の努力という小さな点が、厳しいシェフの絶賛という線になって認められた瞬間。今でも胸が熱くなる修業時代の思い出です。

大森 由紀子

おおもり・ゆきこ フランス菓子・料理研究家。「スイーツ甲子園」(主催・産経新聞社、特別協賛・貝印)アドバイザー。

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