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大きく曲がる魔球や最適な〝球〟選びにも醍醐味 京大から広がる「キャップ野球」の魅力

産経ニュース 2025年2月5日 12時23分

ペットボトルのキャップ(蓋)をボールに見立てた「キャップ野球」と呼ばれるスポーツが大学生を中心に人気を集めている。大きく曲がる変化球はまるで〝魔球〟で、プラスチックのバットで打ち返した飛距離で得点を競う。競技は京都大のサークルが起源とされ、今では全国各地に広がった。青春を小さな蓋にかける若者たちをとりこにするその魅力とは-。

昨年12月、京都市左京区の体育館で行われた「京都大キャップ投げ倶楽部」の練習。部員らはキャッチボールの要領でキャップを投げ合い、ウオーミングアップする。その後、打撃や投球の実戦練習に移り、決して広くはない体育館で汗を流した。

ルールは野球と似ているが、1チーム5人、フィールドもバスケットコート1面の半分程度と小規模だ。飛距離によって進塁が決まるが、守備側(投手、捕手、野手2人の計4人)がノーバウンドで捕球するなどするとバッターはアウトとなる。攻撃側と守備側に分かれて点数を取り合い、得点が高い方が勝利する。

キャップ野球と京大は縁が深い。京大OBでお笑い芸人の日野湧也(わくや)さんが、在学中の平成29年にサークルを立ち上げ、交流サイト(SNS)で全国に広がったとされる。今では全国各地の大学にキャップ野球サークルが存在し、日本キャップ野球協会によると国内の競技人口は約2千人との推計がある。プロ野球・DeNAのトレバー・バウアー投手が令和5年にプレー動画をSNSで公開し、話題になった。

運動部出身もそうでない人も

キャップ野球は体格や性別を問わず、さまざまな人が活躍できるハードルの低さが魅力だ。30人以上が在籍する京都大キャップ投げ倶楽部でもそれは同じ。投手を務める3年の室田大道(まさみち)さんは野球未経験者で、高校時代は落語と競技かるたに打ち込んでいた。京大進学を機にキャップ野球に出合った。前代表の3年、河村輝(ひかる)さんは高校時代は卓球部に所属していたといい、「卓球で得た反射神経は生きたと思う。打てたときも楽しいし、投げて抑えても楽しい」と笑顔で魅力を語る。

マウンドから打席までの距離は野球の半分の9・22メートル。投手は変化球やフォームに工夫を凝らす。握る位置や指を少し変えるだけで曲がりが異なり、浮き上がったり鋭く落ちたりする球もある。

繊細な競技だけに、こだわりも大きい。選手らはキャップの硬さや手触りに加え、「スリット」と呼ばれる側面の切り込みの間隔を重視し、自分好みの蓋を探す。中には裏側のシリアルナンバーで良しあしを判断したり、コンビニなどでキャップを吟味したりする部員もおり、それぞれ研究に余念がない。試合ではキャップのサイズや色などの規格があり、ルール内で最適なキャップや握り、フォームを追求する楽しさもある。

捕球も重要、憧れの舞台で成長

キャップは野球のボールに比べ、当たればそれなりに飛ぶ。その分、フルスイングよりも当てることに特化したフォームが求められる。打つ、投げる以外に重要なのが捕ることだ。特に捕手は、一定のラインを越えて投球をそらすと捕逸となり進塁を許してしまうため、キャップを体で受け止める技術も必要だ。

京都大キャップ投げ倶楽部の現代表で2年、高地研聖(けんしょう)さんは「試合で活躍するのも楽しみの一つだし、練習で打ったり投げたりするだけでも楽しめる」と話す。中学時代に日野さんの動画を見てキャップ野球の存在を知り、京大進学とともに入部。憧れの舞台で成長を続け、今では関西屈指の捕手へと成長した。

野球経験の有無や体格の大小を問わず、さまざまなルーツを持つ選手らが輝くことができるキャップ野球。取りつかれた若者は目標に向け、今日も技術を磨き続ける。

取材を機に、野球部に所属した経験のある記者も体験した。的が小さく、テレビゲームのような軌道で迫るキャップにバットはかすりもしなかった。また、見よう見まねで投げてみても思うように飛ばない。選手らの技は一朝一夕で身につくものではないと痛感した。(渡辺大樹)

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