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12歳の少年が見た昭和37年 通勤地獄に負けない父 植木等さんみたいになればいいのに プレイバック「昭和100年」

産経ニュース 2024年11月17日 8時50分

<当時の出来事や世相を「12歳の子供」の目線で振り返ります。ぜひ、ご家族、ご友人、幼なじみの方と共有してください。>

ギリギリ大正生まれの父は昭和とほぼ同じ年で、終戦直前の1年ほどは戦地にいて危ない目にもあったらしい。その父ですら最近の朝の通勤ラッシュは「地獄のようだ」と言っている。

今住んでいる団地から会社まで1時間、電車に乗っているのは約40分というが、駅のホームには「押し屋」と呼ばれる駅員さんたちがいて、次々と乗客を押し込んでくるらしい。

新聞によると混雑率300%を超える日もあって、先に乗っていると、どんどん真ん中に押し込められて息もできなくなるという。父は、暑い夏もきっちりとネクタイにスーツ姿だし、冬は、みながコートなどで厚着になるからさらに大変で、「殺人ラッシュ」という流行語まで生まれた。

東京の人口が今年、世界で初めて1000万人を超えたらしい。日本の人口の約10分の1が東京に集まっているのだ。戦後に地方から多くの人が東京に働きに来たことが大きいが、終戦後しばらくは500万人くらいだったというから2倍に増えたことになる。通勤地獄になるのも当たり前で、「あたり前田のクラッカー」だ。

ただ、4年前に東京タワーができたころから東京がものすごく発展しているのは僕にもわかる。2年後には東京オリンピックも開かれるので、ますます大きな都市になるだろう。

先日の夜、家族で銀座に食事に行った時も、まるで昼間のように街は明るく、百貨店や映画館などもすごく充実していた。いくら人が混雑しても僕は東京に住んでいてよかったと思う。田舎から出てきた親戚のお兄ちゃんも日比谷あたりのダンスホールによく通っているらしく、流行のツイストを踊っているという。東京は知らない人ばかりなので、腰をクネクネさせても恥ずかしくないそうだ。

この年は8月に堀江謙一さんという23歳の若者が兵庫県からサンフランシスコまで太平洋を小型ヨットで1人で横断するという快挙があった。アメリカへの入国をめぐって日本側は問題にしたが、サンフランシスコ市長は「コロンブスもパスポートはなかった」と言って歓迎したらしい。堀江さんもカッコいいが、この市長もイカしてる。

一方で10月にはアメリカとソ連の間で「キューバ危機」と呼ばれる出来事があった。アメリカの隣のキューバにソ連が核ミサイル基地を建設中ということがわかり、本当に核戦争になりかねなかったというのだ。米ソの仲が悪いことは僕でも知っているが、世界中を争いに巻き込んでほしくない。

この年はテレビの受信契約が1000万件を超えたらしい。もちろん僕の家でも2年前からあるし、他の三種の神器の冷蔵庫や洗濯機も使っている。これも父が通勤ラッシュを我慢して、がむしゃらに働いてくれたからだ。

戦後の復興や今の好景気も、父ぐらいの年の人たちが頑張って支えてきたのだと思うが、そろそろ少し休んでもいいのではないか。僕の好きなテレビ番組「シャボン玉ホリデー」に出ているクレージーキャッツの歌みたいに、もうちょっといいかげんなサラリーマンでもいいと思う。でも、まじめだから「無責任男」にはなれないんだろうな。

父は僕たち家族のためにもう少し郊外に一軒家を建てたいと言っている。そうなれば、ますます長い通勤地獄になってしまうので、今の団地のままでいい。体を壊して「ハイ それまーでーヨー」にはなってほしくない。

※昭和30年代から40年代前半の高度成長期を支えた日本のサラリーマンたち。一方で、そんな時代をスイスイと調子よく生きる植木等さんの「無責任男」も共感を呼び、映画「無責任シリーズ」はこの時代に30本が制作された。

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