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「秋だけのイメージ覆したい」 カボチャに魅せられ専門店を開業した宮本雅代さん  TOKYOまち・ひと物語

産経ニュース 2024年11月7日 21時29分

毎年、10月に向けて各地の洋菓子店にカボチャを使用した期間限定スイーツが並ぶ「ハロウィン商戦」が終了した。そんな中、東京都世田谷区若林にある「カボチャ」は年間通してカボチャスイーツのみを販売する異色の洋菓子店だ。店頭に立つ宮本雅代さん(50)は、カボチャを主食にするほどの「生粋のカボチャ好き」で…。

パティシエで挫折

出合いは幼少期。祖母の作るカボチャの煮物が食卓によく並び、雅代さんは甘過ぎず、やや塩味が利いたそれが大好きだった。高校卒業と同時に一人暮らしを始めると、「おなかいっぱいになれる」とカボチャを主食にし始めた。「いつかカボチャの専門店を出したい」。そう思いながらも、幼いころからの夢だったパティシエを志し、ケーキ店に就職した。

ここで雅代さんは思わぬ問題に直面する。「いざ働いてみると、生クリームが嫌いだったり、フルーツが苦手だったり…」と、ケーキの具材のほとんどが口に合わなかったのだ。また「甘いものは好きだけど、カボチャのような〝自然な甘み〟とはどこか違うと感じた」。

結局わずか3年ほどでケーキ店を退職し、その後はパン店、カフェと職を変わった。それでもカボチャ専門店を開く夢は諦めずにいた。

当初は閑古鳥

ある日、カフェで「カボチャのチーズケーキ」を自作したところ、客から絶賛された。そこで、「世間の人もみんなカボチャ好きなんじゃないか」と勘違いして、専門店出店の決意を固める。

だが当時カフェで知り合い結婚した夫の香二さん(46)から、「そこまでのマニアは少ないし、変わった店で終わってしまう」と特化することに反対される。結局、カボチャを主張しつつも、ショートケーキなど万人受けする商品も並べ、平成18年にその名もずばり、「カボチャ」を開店。「後々専門店にしようとは思っていたし、何より覚えてもらいやすい」と思い切った。

当初は客もまばら。「2人で食べていけないくらいで、アルバイトに行っていた時期があった」と振り返る。しかし2度の転機を経て人気店へと変貌を遂げていく。

ハロウィン定着

1度目の契機は開店から4年ほど過ぎたころ、ハロウィンの文化が日本に定着したことだ。店にも多くの客が押し寄せ、カボチャスイーツを楽しんだ。雅代さんも「ほらね、って感じでしたよ」と得意げに語る。空前のハロウィンブームで自信をつけた夫婦は25年、カボチャスイーツ専門店として再スタートを切った。だが、ショートケーキやバナナのタルトなど、カボチャ以外のスイーツを目当てに来ていたお得意さまが離れ、再び冬の時代を迎えることになる。

2度目の転機は6年ほど前、あるインフルエンサーが来店し、SNS上で紹介して、話題になったことだ。翌日、店には長蛇の列。雅代さんは「インフルエンサーってすごいな」と驚きを隠せなかったという。今でも開店直後から客が訪れる人気店になり、待たせないよう対応に追われている。

年中食べてほしい

カボチャスイーツ専門店の先駆けとなった雅代さんだが、悩みの種は尽きない。10月に偏っている売り上げをなんとか平準化したい。また国内のカボチャ消費量が減少傾向にあることにも頭を悩ませる。「スーパーに一年中売っているのに、食べられるのが秋だけなのは寂しい。『カボチャは秋』ってイメージを覆したい」

将来の夢は「カボチャのレシピ本の出版」だ。根底に、一人でも多くの人にカボチャを好きになってもらいたいという思いがある。「こういう作り方、食べ方があるんだよっていう考案をしたい。家でも作ってみてほしい」。カボチャの魅力を伝える雅代さんの戦いはこれからも続いていく。(宮崎秀太)

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