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「空中に浮く靴」介護に応用 公式ユニホームは性別選ばず 高齢化・多様化に対応する衣服 万博未来考 第3部(5)

産経ニュース 2024年8月30日 7時0分

生活必需品たる衣服は年齢や性別などに関係なく、人生を豊かにするツールでもある。時代の最先端を発信する万博は、新たなファッションの波を起こす舞台となるか。

6月下旬、大阪市生野区。ウエットスーツ素材で世界シェア7割を占める素材メーカー「山本化学工業」の本社に、アパレル企業4社の担当者が集まった。2025年大阪・関西万博の出展準備のためだ。

自己表現のツール

大阪府市と経済界が出展する地元館「大阪ヘルスケアパビリオン」では、府内の中小企業が独自技術を生かした製品を展示する。会期中の来年9月にはアパレル関連の17社が4チームに分かれ「未来のファッション」を紹介する。

「未来をイメージした(戦隊)ヒーローのようなスーツにしましょう」

山本化学工業など5社のチームでは、同社のゴム素材を用いた「サイバースーツ」を製作している。1着のスーツを腕や足など体のパーツごとに分離し、すぐに着脱できる仕掛けを考案中。スーツのパーツから自在に形を変える「トランスフォームする帽子」も作る。同社の担当者は「ファッションは自己表現のツール。高齢者や障害者も、パーツを自由に組み合わせて服を楽しめるようにしたい」と話す。

意識変えた70年万博

ファッションに対する日本人の意識を変えた先例が、1970年大阪万博だ。

当時パビリオン3館のユニホームデザインを手掛けたファッションデザイナーのコシノジュンコさんは「時代の最先端のファッションを提示する場だった」と振り返る。万博のユニホームは、見た目にこだわらない従来の制服の概念を覆すとともに、ファッションの大衆化を進めた。

高度成長期を経て近年は、流行を取り入れた安価な衣料品を大量生産する海外発のファストファッションが浸透。大阪商工会議所繊維部会長の大西寛(ゆたか)さん(62)は、アパレル企業にはデザイン性だけでなく、独自の進化が求められるとして「万博を、付加価値を高める好機にしたい」と意気込む。

リサイクルできる素材

山本化学工業などのチームでは靴メーカーのリゲッタ(大阪市生野区)を中心に、リニアモーターカーのように超電導の浮力を生かした「空中に浮く靴」の製作も進める。高齢者らを抱きかかえて動くときなどに、介護する側の足腰に直接かかる重力の負荷を浮力によって軽減する効果が期待される。

着付けが難しいとして敬遠されがちな和服も、羽織るだけで端正な姿を演出できる製品の展示を目指し、介護分野などへの応用を視野に入れる。

日本国際博覧会協会は今回、公式ユニホームのデザインを公募。性別に関係なくロングスカートなどを選べるようにし、生地にはリサイクルできる素材を採用した。

「環境や多様性といった、時代の要請への対応を重視した。来場者にはそうした狙いを意識してみてもらいたい」。ユニホームを考案した制服メーカーのデザイナー、服部真理子さん(53)はそう語り、「万博ユニホームがモデルケースとなり、こうした考え方が一般の服にも浸透していけば」と期待を込めた。

=第3部おわり

 

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