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「3億円事件」 捜査ファイルが明かす警視庁の「焦燥」 警視庁150年 53/150

産経ニュース 2024年7月11日 7時0分

昭和43年12月、東京都府中市で白バイ警察官姿の男が現金入りのジュラルミンケースを持ち去った「3億円事件」。奇抜な手口と被害の大きさから戦後史に残る未解決事件だ。産経新聞警視庁記者クラブに眠っていた捜査資料から浮かぶのは、史上空前の大捜査の内幕や、犯人の特定に至らない捜査当局の焦燥だった。(内田優作)

《通達乙(刑.1.1)第27号 府中警察署管内発生「現金輸送車強奪事件」捜査について》

45年2月、警視庁は刑事部長名で各方面本部や警察署に文書を通達した。文書は、発生から1年余りが経過した事件の捜査概要と課題が35ページにわたりまとめられている。

「都民はもとより全国民が捜査の動向に深い注目と関心」「本件捜査の帰すうが全警察の威信にかかわる」。冒頭から捜査陣の危機感がにじむ。

事件は43年12月10日、府中市の路上で発生。午前9時20分ごろ、白バイ警察官姿の男が東芝府中工場へ向かう日本信託銀行(当時)の現金輸送車を「ダイナマイトが仕掛けてあるかもしれない」として停車させた。車の下からは発煙筒による煙が出た。ひるむ行員を尻目に男は車に乗り込み、東芝の賞与として積まれた2億9434万1500円を奪った。

文書によると、捜査本部は手口や事件前に犯人が出したとみられる脅迫状の筆跡などから、単独犯の可能性が濃厚と分析した。だが、対象者が多く捜査は難航。47年7月には捜査体制が最盛期の約10分の1にあたる20人まで縮小された。警視庁は捜査主任に「名刑事」として知られた平塚八兵衛を起用し、解決を期した。

48年12月、捜査本部は《三億円強奪事件捜査状況》という中間報告をまとめる。公訴時効まで残り2年。青焼きで13ページの文書には捜査上の課題が凝縮されている。

この時点で捜査を行った対象は9万5千人を超えていた。同文書は重点的な捜査課題に「東芝、銀行関係」「遺留品(トラメガ)関係」「情報関係」の3点を示した。トラメガとは、犯行に使われた偽の白バイのトランジスタメガホンを指す。捜査本部は同じ機種に的を絞ったが、捜査対象852台のうち1割以上の行方が特定できなかった。現金が入っていたジュラルミンケースには照合可能な指紋1点もあったが、犯人のものとの断定には至らなかった。

50年、強盗事件としての公訴時効が成立。平塚は著書で失敗の要因に、モンタージュ写真にこだわりすぎたことや初動対応の失敗などをあげた。

「細心の計画と大胆な犯行。この事件を初めて耳にしたときに私が感じた<この事件は奥が深いぞ…>というカンは、みごとに適中したのである」(『三億円強奪事件』)

かくして、犯人は闇の中へ消えた。

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