2025年大阪・関西万博を控え、大阪市の路上喫煙の禁止エリアを全域に拡大する改正条例が27日に施行される。喫煙場所の激減をカバーするため、「市の責務」で確保するとした喫煙所は、当初目標の倍の約300カ所となる見通しだ。ただ、設置場所は繁華街などに集中し、4月に大阪府条例が施行されると喫煙可能な飲食店も大幅減となる。愛煙家からは「大阪は喫煙者に世界一厳しい都市になる」との嘆き節も聞こえる。
市は平成19年、受動喫煙防止や吸い殻のポイ捨て対策として、路上喫煙防止条例を施行。御堂筋などを喫煙禁止地区に指定し、過料千円の徴収を始めた。さらに万博を前に「国際観光都市にふさわしい環境美化」を進めようと昨年3月、禁止地区を市内全域の路上に広げ、規制対象に加熱式たばこも加えた改正条例が市議会で可決された。
横山英幸市長は条例施行までに「140カ所の喫煙所を確実に整備していく」と明言し、民間が整備する際の補助金を創設。一般開放に協力したパチンコ店の喫煙所(約120カ所)なども加え、施行日には喫煙所計約300カ所が稼働できるという。市の担当者は「民間の協力が思った以上に得られた」とし、万博開幕時には約330カ所まで増える見込みだ。
一方、市内でも繁華街の中央区は指定喫煙所が40カ所超だが、人口10万人前後の鶴見区や西淀川区は指定喫煙所が各4カ所のみ。喫煙所の空白エリアが広大な区も複数あり、喫煙する市民からは「喫煙所の数しか考えなかった結果ではないか」との厳しい声が上がる。
飲食店4千店が「アウト」
愛煙家に追い打ちをかけるのが、府が4月1日に全面施行する改正受動喫煙防止条例だ。店内喫煙を禁止する飲食店の客席面積を現行の100平方メートル超から30平方メートル超に規制を強化。違反した場合、喫煙者は3万円以下、店側には5万円以下の過料と罰則は厳しい。
府によると、これまで経過措置として届け出のあった100平方メートル以下の府内の飲食店約1万9千店は、「喫煙可能店」として喫煙を容認してきた。しかし、4月の全面施行で30平方メートル超の少なくとも約4千店が、新たに規制対象に加わる可能性があるという。
大阪市内では結果的に、喫煙を巡る市と府の2つの条例で規制が強化されることになる。結果的に自宅など私的な空間以外で法令上喫煙できるのは、指定喫煙所や飲食店、勤務先の喫煙ブースなどに限られる。
大阪市内で16日に開かれた両条例の周知イベントで、吉村洋文府知事は「たばこを吸う人と吸わない人が互いに配慮し、住みやすい大阪になれば」と述べた。だが、たばこ業界の関係者は「店でも吸えなくなる春以降、路上喫煙が増えて非喫煙者にも不満が広がるのでは」と述べ、条例の実効性に疑念を示した。
海外都市、屋外の規制は限定的
訪日外国人客の来訪が多く見込まれる大阪万博の開幕を前に、会場となる大阪市を中心に屋内外双方で喫煙規制の強化に踏み切る。一方、海外の都市では屋内での喫煙を厳しく制限しながらも、屋外の喫煙規制は限定的なのが実情だ。
日本たばこ産業(JT)のまとめによると、海外の主要都市は受動喫煙防止などを目的に屋内での喫煙規制は厳しい。2023年11月時点で、米国のワシントンでは飲食店は原則禁煙となっており、喫煙できるのは喫煙席やテラス席などに限定。英国のロンドンやフランスのパリなども同様の状況だ。アジアでも中国の北京や韓国のソウルなどでは、屋内は喫煙室以外ほぼ原則として禁煙を打ち出す。
これに対し、屋外の路上や公共場所での規制は、大阪市などと比べれば範囲は限られる。ワシントンはバス停から7・6メートル以内や公園、スポーツ会場などでの規制のみ。パリも教育施設などは禁煙となるが、ロンドンとともに路上の規制はない。アジアではシンガポールが医療・教育施設付近や公園などで喫煙を禁じているものの、路上での規制は北京やソウルも含め、特定エリアを除いて見られない。
日本では東京都千代田区が平成14年、全国で初めて区内全域の路上喫煙に過料を科す条例を施行。昨年11月からは加熱式たばこでも過料徴収を始めた。一方、国は令和2年4月、改正健康増進法を全面施行し、屋内が原則禁煙となったが、屋外は「配慮」を求めるにとどまる。喫煙規制に詳しい関係者からは「世界と比べ、日本の屋外規制は突出しすぎだ」との指摘も上がっている。
喫煙者と非喫煙者、互いに歩み寄れる規制を
村中洋介・近畿大准教授(地方自治法)
路上喫煙禁止は東京都千代田区など都市部を中心に進んでいる。私を含め煙にさらされたくない非喫煙者からすると、大阪市の路上喫煙全面禁止は当然の流れだと感じるが、喫煙所整備もセットで考えないといけない。
屋内や職場でも全面禁煙が進み、喫煙者は近くに喫煙所がない場合、人目につかない屋外で喫煙することになる。ルールを知らない訪日外国人客もそうした姿をまねることになる。
大阪市は万博開幕までに330カ所の喫煙所整備を目指すとするが、人口規模や広さを考えると桁違いに増やさなければ分煙は進まない。設置や維持の費用負担を伴うが、喫煙者はたばこ税を納めており、喫煙者と非喫煙者の双方にメリットがあるなら分煙環境の整備にも使うべきだ。
大阪府条例による店内禁煙の厳格化は、受動喫煙防止策として各国で進み、世界標準といえる。たばこは健康被害が指摘されるが、喫煙者には精神的な安定につながる側面もある。周囲に害のない範囲で、喫煙者と非喫煙者が互いに歩み寄れる、極端ではない規制にすべきだ。(山本考志、宮本尚明)