令和4年2月、葬送関係者の間に「衝撃」が走った。《新規事業の開始に関するお知らせ》。東京23区の火葬場シェアをほぼ独占する民間の「東京博善」を完全子会社化する「広済堂ホールディングス(HD)」が、ある発表を行った。
葬祭事業を行う「燦HD」と業務提携し合弁会社を設立。「火葬事業」に加え「葬儀事業」に本格的に乗り出すことを決定したというものだ。これにより、葬儀から火葬までを一挙に担う「オールインワン」のサービス展開が始まった。
葬送業界には「葬儀」と「火葬」は別々の業者らが担うとする暗黙のルールがあったという。日本は、特別な許可などがない限り火葬で、葬儀業とは分け、公共的な非営利事業として行われるべきだと考えられてきた。
だが、広済堂は切り込んだ。「利益重視であまりにも公益性に欠けている」。都葬祭業協同組合の鳥居充副理事長は危ぶむ。
民間任せ「容認」
全国の火葬場の約97%は、市区町村などの運営だ。ただ東京23区は「異質」で、全9施設中7施設を民営が占め、東京博善は、6施設とシェアをほぼ独占する。
都によると、昭和初期には、複数の公営火葬場建設が都市計画に盛り込まれたが、実現したのは瑞江葬儀所(江戸川区)だけだった。都は「記録は残っていないが民間がやっていたので任せた形になった」と推察する。
ただ、そうした昭和期の状況は、大きく変容した。まず変わったのが東京博善だ。長く社長には宗教家が就き、半ば公共性が担保されてきたが、今は、その手を離れ「中国資本」が入る広済堂の傘下に入った。そして火葬料は値上げに次ぐ値上げで、他の自治体と比べて著しい高値となった。
都は、23区の火葬料は他の自治体のように直接税金を投入して補助しているのではなく、利用者それぞれが応分の料金を支払う受益者負担を強いているとの認識だ。東京博善の利益追求にも理解を示し「火葬料は妥当な範囲だ」とする。
ただ、火葬に関する著書がある葬祭会社代表の佐藤信顕氏は「東京では焼骨での埋葬しか認められておらず、火葬を強制されている。新規参入がないことをいいことにした好き放題の値上げは権力の乱用だ」とみる。
「ドル箱」事業に
高齢化の進展で、多死社会を迎えたことも昭和期と変わった点だ。年間の死者は昭和30年代は70万人程度だったが、令和5年は約157万人と倍増。葬送の「ニーズ」は高まる。
こうした状況は、民間からみれば、「ドル箱」だ。東京博善は中国資本が入り値上げを続けるほか、関係者によると、自治体の火葬場が1日に扱うのは1炉当たり2件程度が多い中で、約10件とフル稼働させているという。さらに葬儀とセットでのサービス展開を加速させ、営利追求を隠さない。
これに対し、都の反応は鈍い。昭和23年施行の墓地埋葬法では、火葬場の監督許可はあくまでも市区町村だとし「もし火葬拒否という事態になれば区が許可取り消しなどの措置を取るだろう」とするだけだ。
佐藤氏には、こうした都の姿勢がもどかしく映る。「東京博善に中国資本が入り制御不能に陥った。問題は23区にまたがるが、都は無関係を装い方向性を導き出そうとしない」と語る。
その結果、死に関わる極めて公共性の高い「インフラ」が外国資本に委ねられ、「搾取」されているという見方もできる。しかも、その外資は、平時有事を問わず国民に国家への協力義務を課す中国だ。「明治から火葬を民間任せにしてきたツケが今、回ってきた。手遅れになる前に手を打つべきだ」。佐藤氏は警鐘を鳴らしている。(大渡美咲、宇都木渉)