2025年大阪・関西万博では、スタッフのユニホームにも参加国や企業のポリシー、理念が宿る。1970年大阪万博でユニホームは最先端のファッションを提示し、トレンドを生み出した。13日で万博開幕まで2カ月。今回の日本館ユニホームを考案したファッションデザイナーの中田優也さん(36)はデザイン性だけではない「付加価値」で勝負する。
グレー一色のセットアップに、ファスナーはない。帯のようなベルトで縛るジャケットは着物の風合いを醸し出す。派手さはないが、シンプルで洗練された印象だ。
テーマは「循環」
大阪・関西万博で会場内最大のパビリオンとなる日本館のユニホーム。コンセプトは「日本の美意識を纏(まと)う」だ。
独自のブランドを立ち上げ、フランスなど海外でもコレクションを発表している中田さんは「主観に寄りすぎない『日本観』をデザインした。コスプレのようにならず、働く人が空間になじむことを意識した」と話す。
日本館は「循環」をテーマとし、藻類や微生物を活用した最新バイオ技術を紹介する。ユニホームも「循環」を体現し、素材に植物や使用済みのペットボトル由来の繊維を使っている。見た目に加え、着心地や動きやすさにも腐心した。
「黒子のような存在として、働く人のモチベーションを上げられる服になれば」
多様性や個性重視
70年万博では、最先端のトレンドを取り入れたユニホームが注目され、「フューチャリスティック(未来的)」(中田さん)なファッションは、やがて大衆に広がった。
中田さんは70年代のファッションを「明るい未来を表したいというデザイナーの意志を感じる」と評し、現代のファッションについては「世の中を良くし、便利にしたいという思いが強い」と指摘する。
今回は他のパビリオンのユニホームも、自然由来の素材でリサイクルしやすくしたり、機能性を追求したりしている。ファッションが自己表現のツールとして浸透した現代では、服に多様性や個性を求める傾向にある。
中田さんが目指すのはどの時代にもなじみ、着こなせる「タイムレス」なファッションだ。それでいて、万人受けするようなデザインではない。「100人のうち1人でも評価してくれる人がいれば、服をつくる」。個が一層重視されるであろう未来において、デザインが持つ力は決して小さくない。(石橋明日佳)